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「ママ、だいじょうぶ?いたくない?」
「大丈夫だよ梨々花。段ボールの鎧のおかげでケガしなかったよ。梨々花は噛まれないようにママが悪者をやっつけるから、心配しないで」
たまたま事なきを得たが、相手の攻撃を食らってしまったのは事実だ。
これが自分だったからよかったものの、梨々花だったらと考えると背筋が凍る。
自分がしっかりしなければならない。油断も隙も一切見せず、梨々花を守りながらこの状況を切り抜けるのだ。
「りり、怖いかもしれないけど、ティアラちゃんが悪者と戦うときみたいに強い気持ちを持とうね。パパを迎えにいっておうちまで帰れれば、きっと梨々花はティアラちゃんみたいにかっこいいプリンセス戦士になれるよ」
本当はこんな残酷な現場を見せたくないに決まっている。昨日までだったら、夢と希望で満ちた未来を語ってあげられたのに。
死ということについてすら、梨々花にはまだ何も教えてあげられていないのだ。
でも――と奈津美は思う。
一体、今世界で何が起こっているのかはわからないが、これは神の予告なのではないだろうか、とふと思う。
安定・安心な世界の終焉。次のフェーズへのカウントダウン。
菜津美は梨々花の手を引くとマンションエントランスへの自動ドアを通り、辺りに人気がないのを確認する。小規模マンションのため、エントランスは狭い。
すぐ目の前のオートロック扉を抜ければ、いよいよ外の世界だ。
菜津美は扉が反応しないように少し離れたところから目の前の道路の様子を伺うが、人が歩いているようには見えない。
しかし、道路を挟んで向かいの住宅を見やれば、不安そうな顔で窓から外を覗く人影が見える。
やはり異変は確実に菜津美たち家族以外にも迫っている。やっとそう実感した。
「りり、これからお外に出て駅までパパを迎えに行くからね。絶対2人でパパを連れて帰って、プリンセス戦士になろうね」
「うん……!」
梨々花の小さな手が強い意思を返す。
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