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「ママ、今日はキラキラのゴムでティアラちゃんみたいにして」
ようやく眠気が覚めた梨々花がソファに寝そべりながら声をかける。
「ええ? ティアラちゃん? そんな難しいのママにはできないよ……」
「やだー! ティアラちゃんにするの!」
ティアラちゃんとは、人気女児向けアニメの主人公のキャラクターだ。
如何にも幼児心をくすぐるようなフリフリの衣装に変身し、宝石のようなものをふんだんにあしらったバトンを持って敵と戦うのだが、その時の髪型にしてほしいのだと言う。
サイドを複雑に編み込んでハーフアップにするという、不器用な菜津美には何ともハードルの高い要求だ。自分の髪の毛ですら、いつも一つにくくるか、洗いざらしのままおろしておくだけなのだ。
梨々花は今年4歳になろうとしているが、幼稚園でのトレンドや可愛いものに関しては人一倍敏感なのである。
「本当に、誰に似たんだろう……」
地味な菜津美とは正反対のタイプなのだから、夫の洋平の血を色濃く受け継いだのだろう。
洋平は独身時代、甘い柔和な笑顔とスポーツマンらしいがっしりとした体形で女性によくモテた。
性格も明るく、パッと人目を引く彼の周りには、男女問わずいつも大勢の人がいた。
そんな洋平が、何の特徴もない菜津美の、一体どこを好きになってくれたのかいまだに分からないままだが、今のところとても菜津美のことを大事にしてくれている。
家事も子育てもよく手伝ってくれるし、何でもない日のちょっとしたプレゼントも欠かさない。
そう考えてみれば、梨々花はそんなパーフェクトな夫によく似ているかもしれない。
顔立ちも愛らしく、性格もそれに恥じないくらい堂々としている。
こんな家族を持つことができて、菜津美はとても幸せなのだ。
ただ、自分自身に何の取り柄もないのが少しコンプレックスなだけ。
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