。+The cracked heart +。

11/25
前へ
/137ページ
次へ
二人で煙草を燻らせながら、青い空を見上げる。 春の晴天。 その間、大して言葉は交わさずに。 でも、この沈黙は気まずくはない。 寧ろ、どこか安心するような。 そんな。心地のよい沈黙。 お互い、ほぼ同時に煙草を吸い終え、俺は常に携帯している携帯灰皿へ吸殻を押し付け火をもみ消す。 それは、隣にいる九条先輩も同じことで。 ふ、と。 九条先輩が持っている携帯灰皿に視線を落とせば、奇遇にも色違い。 「あ。凛ちゃんもここのブランド好きなの?」 「はい、好きです。九条先輩も?」 「うん。ここのブランドすごく好きなんだよね。独創的で、それでいて繊細じゃない?」 そう言って微笑む先輩は、とても年上とは思えないくらいにあどけない表情を浮かべている。 確かに。 俺も、ここのブランドは独創的で、それでいて繊細なデザインが気に入っている。 割りとコアなファンが多いブランドだから、まさか先輩も好きだったとは。 意外だ。 「俺、服とかもそこで買ってるんだ。一度はまっちゃうと、とことん極めたくなっちゃって。」 「俺もです。」 「…なんか、意外かも。」 「何がですか?」 率直にそう尋ねれば、九条先輩は少し思案を巡らせた後、言葉を選ぶようにして此方を向く。 「いや、なんかね。凛ちゃんって、割りと可愛いような、綺麗目な感じのテイストが好きなのかなってイメージがあって。だから、意外だな、と。」 「…はあ、なるほど。」 「あの、これは決して悪い意味ではなくて。うん」 そう言って、何故か慌てる彼は面白い。 こんな一面は、初めて見た。 なんとなく。 彼を少し知れたような気がする。 俺は、可笑しくなって静かに笑いを溢すと、九条先輩は何とも言えない顔で苦笑いを浮かべた。 「俺、綺麗目は好きですよ。可愛いのは流石に着ないですけど」 そう告げれば、九条先輩はまたもや苦笑いを浮かべながら、本日3本目の煙草に火をつけた。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

780人が本棚に入れています
本棚に追加