。+Ephemeral light+。

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授業も淡々と終わり、帰り支度をしていると。 メッセージの受信を知らせるかのように、スラックスのポケットに仕舞い込んでいた携帯のバイブ音が鳴る。 俺は、ポケットから携帯を取り出し。 メッセージを開く。 なんとなく。 分かってはいたが、案の定。 差し出し人は九条先輩で。 メッセージの内容は、 『今日時間ある?煙草を燻らせに来ませんか』 という、内容で。 相変わらず。 生徒会長らしからぬ、発言をする人だなあと。 思わず笑いを零す。 九条先輩に、大丈夫ですよという簡潔的なメールを返して携帯をポケットに仕舞い込んだ。 今日、蓮は生徒会の仕事で。 那智は村岡先輩の所に行くとのことで、蓮と一緒に生徒会室へ。 春は、この間行われたテストの結果が思わしくなかったらしく。 担任に呼び出されていたから、大方、先日まで嘆いていた追試だろう。 大概。 4人の内の誰かしらと寮まで帰ることが多いので。 一人で帰るのは久しぶりだ。 薄っぺらい鞄を肩にかけ。 一人、教室を後にする。 廊下を出れば、下校時刻の為、ちらほらと生徒がそれぞれの教室から出てきている。 俺は、いつも通りゆっくりとした足取りで廊下を歩く。 相変わらず四方八方から感じる視線。 俺が一人で居る事が珍しいのか。 今日は、一段と視線が痛いように感じる。 ふ、と。 1階へと向かう階段に差しかかった所で。 背後から肩を強く掴まれた。 一体誰なのか。 そんな事を確認する間もなく。 唐突に腕を掴まれ引かれるがままに。 近くにある、人気の無い美術室へと押し込まれた。 「…っ」 美術室へ無理やり押し込まれた御蔭で俺はバランスを崩し、その場に倒れ込むように床に座り込んでしまう。 自分の非力さを。 この時ばかりは恨んだ。 痛みに一瞬顔を歪めつつ。 一体誰がこんな事をしたのかと。 美術室の鍵を閉めている相手の顔に視線を移した所で俺は驚きから、目を瞠る。 「…久しぶりだな、綾瀬」 そう言って、嫌な笑みを浮かべながら此方に近づいてくる相手は。 以前交際していた、佐藤で。 突然何なのかと。 自然と眉間に皺が寄る。 「いきなり悪かったな。ちょっと、噂を耳にしてさ」 「……噂?何のだよ」 「会長とセフレだってゆう噂」 「は?」 「お前、知らねえの?皆、挙って最近その噂で持ちきりだけど?」 佐藤から告げられた言葉に、更に眉間の皺は深くなる。 あの人と俺がセフレ? 一体、何処からそんな根も葉もない噂が。 粗方。 誰かに、偶々一緒に居るところでも見られたのだろうか。 噂には尾ひれがつきものだというのは理解しているが。 まさかこんな噂が広まっているとは。 想定外もいいところで。 先程、廊下で感じた突き刺さるような視線の意味も理解できた。 それにしても。 何故その噂で、俺が佐藤に此処に無理やり連れてこられたのか。 「俺と付き合ってた時は碌にキスもさせなかったくせに、いつの間に淫乱になったわけ?だったら、俺にもヤらせろよ」 「は?意味が分からないんだけど」 「はっ、しらばっくれんなよ」 そう。 吐き捨てるように言って、俺との距離を徐々に詰めて来る。 俺は、床に座り込んだまま必死に後ずさりをしたが、狭い空間では直ぐに壁に行き止まってしまう。 そんな俺を見て、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる佐藤に対して寒気がした。 「…っ、やめろ」 「うるせえな。キスくらい何ともないだろうが」 「っ、んん…っ」 壁に押し付けられ無理やりにキスをされる。 必死で抵抗しても、体格の差が有り過ぎて逃れられない。 口内へと。 堅く閉じた歯列を無理やりに抉じ開け、進入してくる熱く滑りを帯びたザラついた舌の感触にに吐き気がする。 今まで。 適当な交際ばかりしていた俺に。 ついに罰が当たったのだと。 そう思うと同時に。 なぜか、頭を過ぎったのは。 とんでもない噂をささやかれている相手である、九条先輩で。 先程まで半ば諦めかけていた俺は、目の前にいる佐藤を思い切り蹴飛ばし。 佐藤により施錠されていた美術室の鍵を、小刻みに震える手で素早く開け外へと飛び出した。
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