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無我夢中で校内を走りぬける。
こんなに。
必死に走ったのは、いつぶりだろうか。
頭の中は冷静なのに、身体の震えが止まらない。
一頻り走り。
昇降口まで来たところで、佐藤が追ってきていないことを確認し、俺は人目を気にする余裕もなくその場でしゃがみこんだ。
今は、周りから突き刺さる視線など気にしていられなかった。
正直。
怖かった。
やはり。
俺は気が知れている人以外に触られるのは、途轍もなく苦手だと。
そう、再確認した。
……犯されてしまうかと思った。
でも。
一瞬。
仕方が無い事なのかもしれないと、諦めかけていた自分もいて。
でも。
頭に過ぎった、九条先輩の顔を思い出した途端。
逃げなければいけない。
そう思ったのだ。
何故そう思ったのかは分からない。
本能が、そう告げたのだ。
震える身体を掻き抱くようにして太ももに顔を埋める。
一体、どのくらいの時間そうしていたのだろうか。
ふ、と。
背後から声をかけられ、恐る恐る顔を其方に向ける。
「凛ちゃん…?」
「…九条先輩」
「どうした?何があった?」
「…いえ。少し気分が優れなくて」
「…何かあったんだろ?嘘吐くなよ」
そう言って九条先輩は、人目も憚らず俺を優しく抱きしめる。
周囲から止め処なく突き刺さる視線。
先程。
佐藤に触られた時に感じた不快感は、全く無かった。
寧ろ。
安心するような。
そんな不思議な感覚さえ覚える。
「凛ちゃん、立てる?此処だと目立つから取り敢えず場所移動しよう」
九条先輩の言葉に俺は、ゆっくりと頷き。
先程より震えが落ち着いた身体を起こし、未だに少し震える足を叱咤してゆっくりと立ち上がる。
「俺の部屋でいい?」
「…はい。ご迷惑おかけしてすみません」
「凛ちゃんは、気を使いすぎだよ。もっと甘えてくれていいのに」
そう言って、九条先輩は困ったように微笑みつつ。
優しく俺の手を取り、俺の歩調に合わせるようにして。
寮にある九条先輩の部屋へと向かった。
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