768人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
「りっちゃん!どこ行ってたの?いきなりいなくなっちゃうから心配したじゃん!」
寮の自室に辿り着き、扉を開ければいつも通り同室者であり友達の春のお説教がはじまる。
これは、いつものことで。
ふらふらといなくなる俺を心配してくれているらしいので、別にうざったくはない。
寧ろ、なんとなく安心するのだ。
怒られるのが好きなわけではないが。
「ごめんごめん。ちょっと急に呼び出されてさ」
「誰に?」
「佐藤」
「…また振られたの?」
その言葉に、静かに頷く。
肯定の意味を込めて。
なんとなく。
春は悲しそうな表情を浮かべながら、小さな身体で俺を抱きしめる。
春が悲しむ必要なんてないのに。
寧ろ、当事者である自分自身、微塵も悲しんではいないのだから。
「…春?」
「りっちゃんは…、りっちゃんは傷つかないの?」
俺の胸に顔を押し付けながら、泣きそうな声で春は呟く。
そんな春の頭を撫でながら少し考える。
傷つく…?
傷ついては、いない。
否、傷つくはず等ないのだ。
だって俺は、佐藤のことが好きだったわけではない。
いつも相手に告白されてなんとなく付き合って。
俺にその気が無いのを知ると、あっけなく別れを告げられて終わり。
それの繰り返しだ。
「俺は傷ついてないよ。寧ろ、たまには独り身も満喫しとかないとな」
そう答えると、春は俺から離れ悲しそうな表情を浮かべつつ苦笑いを零した。
最初のコメントを投稿しよう!