。+Ephemeral light+。

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「えっと…凛ちゃん?なんだか照れるんですが」 「…少し、もう少しだけこのままで」 「……うん」 制服の布越しに感じる、九条先輩の体温。 暖かくて、優しい温度。 俺は、この人の事を一体どう思っているのだろうか。 もしかしたら、と。 思いつつ、春の事を思うと。 その先の感情を、見つけることが出来ない。 俺は、とことん嫌な人間だと。 そう、ひしひしと感じる。 春の事を考えているふりをして。 結局、逃げているのだから。 「…ありがとうございました」 「いえいえ、なんていうか。此方こそ、得した感じです」 「…はあ」 九条先輩から、ゆっくりと身体を離す。 と、着信を知らせる無機質な音がテーブルの上で鳴り響いた。 着信相手を確認すれば、蓮で。 少し。 ほんの少し、なんとなく後ろめたさを感じながらも。 ゆっくりと通話ボタンを押す。 「…はい」 「凛?お前、今日は会長の所に泊まるんだって?」 「ああ、ちょっと色々あって」 「さっき春から電話が来て、泣いてた。凛、春の気持ちに気づいてるんだろ?」 電話越しに伝わる、蓮の声が。 少し、怒りを含んでるような。 そんな気がして。 戸惑う。 もしかしたら、蓮は怒って等いないのかもしれない。 けれど。 俺の中にある、後ろめたいドロドロとした感情が、怒っているのかもしれないと思わせている。 そんな俺の様子を見ていた九条先輩が、心配そうな表情を浮かべながら俺の頬を優しく撫でた。 指先から伝わる体温も、暖かい。 「…うん。知ってる。知ってるから…凄く悩んだ。でも、やっぱり、俺は春をそういう風には見れなくて。だから、そういう部分では中途半端に期待させるような優しさは良くないって思ったんだ」 「うん…、そうだろうとは思ってたけど。俺さ、春のことが好きなんだ。だから、春は俺が貰う。いいんだな?」 「うん。蓮なら、きっと春も幸せになれる。春のこと…宜しく」 「分かった。凛も、自分の気持ちに正直に、な?」 「…うん?」 そう言って、蓮との通話は切れた。 …蓮の春への想いも。 俺は、本当はきっと気づいていた。 ただ。 自分から蓮に聞くのが怖かっただけで。 蓮と俺は双子だけど、中身は全くと言っていいほど違う。 蓮は、強い。 そして、人を愛することをきちんと知っている。 だから蓮は春を幸せにする事ができると。 本心から、そう思う。 蓮が最後に言っていた言葉の意味は、未だよく分からなかったけれど。
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