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2人で。
煙草を燻らせながら。
ふ、と。
隣の九条先輩の横顔に視線を寄せる。
何となく。
胸の奥深くで感じる、想いは何なのだろうか。
見つめれば、見つめる程。
この人に近付きたくなる。
触れたくなる。
次々と湧き上がっていく感情。
それを、誤魔化すようにして。
話題を探る。
「…もうすぐ、修学旅行なんですよ」
「ああ、そうだよね。今日は、元々凛ちゃんの事お誘いしてたじゃない?なんか、もうすぐ修学旅行に行っちゃうから少しの間、会えなくなっちゃうのかって思ったら寂しくて。そんな身勝手な理由で、お誘いしてしまいました」
ふと。
何気なく、思いついた話題から。
こんな、話が聞けるとは思っておらず。
自然と笑みが漏れる。
この人は。
なんて、可愛い人なんだろうかと。
口元が緩む。
「今年も、修学旅行はイタリアだったよね?」
「はい、コロッセオに行こうかと」
「コロッセオか。いいね。俺も、去年行ったんだけど、圧倒されちゃったよ」
「九条先輩も行ったんですか。他にお勧めとかあります?春が、沢山美味しいもの食べるって騒いでたんですよね」
「お勧めはね、Panattoniかな。あそこが一番美味しかった」
「なるほど…じゃあ、行ってみます」
「うん、是非」
九条先輩と他愛のない会話を楽しむ。
この人と話していると、今日あった嫌な思い出も薄れていくような気がした。
ふ、と。
ハニーブラウンの瞳が、此方を食い入るように見つめる。
どうしたものかと。
俺は、首を傾げる。
「あの…、嫌だったら嫌って言ってくれていいんですけど、」
「…はあ」
「…ギュッと抱きしめたまま、お話したら駄目ですかね」
彼は。
そう言って、苦笑いを浮かべる。
ハニーブラウンの瞳に映るのは、
不安。
駄目かと。
聞かれれば、駄目じゃない。
嫌だとも思わない。
きっと。
他のだれかに言われたら、直ぐに嫌だと答えるだろう。
でも。
俺は今、嫌だとは思わない。
寧ろ。
自分も、この人に触れたかったのだと。
俺は、少し間を置いた後で。
肯定の意味を込めて頷く。
「…凛ちゃん、おいで」
そう。
優しく言われて。
俺は、促されるがままに。
九条先輩に背中を向ける形で、太ももの間に腰を下ろし、九条先輩のほうに少し振り返る。
すると。
九条先輩は、満足そうな表情を浮かべながら俺の腰に手をまわした。
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