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「凛、今日佐藤に振られる前に隣のクラスのやつにも告白されたんだって?」
頼んだ月見うどんを味わっていたら、またしても那智が話しかけてくる。
……本当に。どこでそんな情報を仕入れてくるのだろうか。
「うん。でも、その時は一応佐藤と付き合ってたし。ちゃんと断ったけど」
「ふーん。一応、ね」
なんとなく、那智の言葉にひっかかりを感じたが気づかない振りを決め込み、また月見うどんに手をつけることにした。
その間、3人は楽しそうに談笑していたが相変わらず俺はぼんやりとしていて。
ぼんやりとしていて、ふと思い出したのは寮へ帰る途中で見かけた人の事で。
何故、今思い出したのかは分からないが、なんとなく思い出してしまったものは仕方が無い。
「りっちゃんなんかいいことでもあった?」
「え…?」
「なんか、りっちゃん珍しく嬉しそうな顔してたから」
そう春に言われ、自然と疑問を抱く。
嬉しそう?俺が。
今さっき、考えていたのは桜並木の下にいた人の事で。
別に、嬉しいことでもなんでもない。
ただ。
ただ単に、偶々すれ違っただけ。
その横顔をはっきりと覚えている事に、気づかない振りをして曖昧に微笑んだ。
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