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 精神を開放し、羞恥を晒して、丸裸にされた、心は心地よかった。  ミカの胸に頭を押し付け身体を抱かれていると幼児に退行し、母に抱かれているような安堵感を覚えた。 「かわいいね、蓮さん。俺におっぱいあったら吸わせてあげるのに」  ミカはまじめに言っているようだ。 「なくていいよ。男なんだから」 「そう?小さい頃の蓮さんかわいかっただろうな、写真ないの?」  かわいいなんて、親にも一度も言われた事ない。 「家にあると思うけど、絶対、かわいくないよ」  「みせてよー。今度家に呼んでよ」  友達すら呼んだ事ないのに。  両親はどんな顔するんだろう? 「いやあ、どうかな」 「蓮さん、生んで育ててくれたご両親にご挨拶したいな、俺。友達としてでもいいからさ」  ミカが瞳を輝かせながら言う。  なんか、分からないけど嬉しくなった。 「考えとく」  「やった!約束だよ」  ミカは俺を抱き寄せた。  不思議な人だなと思う。  きっと明日になったらもっと好きになっている気がする。     朝になって、ミカは学校に出かけた。夜、バイトが終わったら電話すると言っていた。  なんだか、ちゃんと学校に行っている人なんだなと思うと少し辛かった。昨日来た道を一人で帰った。電車で一駅、そこから歩いて 15分位の所に俺の両親と住む自宅がある。   俺は家への帰り道、色んな事を思い出した。子供の頃の事とか色々。  一人っ子だった俺は、両親から大切に育てられた。穏やかな父と優しい母。庭に犬を飼っている。  小学生の時からサッカーを初めて両親も熱心に応援に来てくれた。  小さな違和感を感じ始めたのもその頃だった。  両親とリビングでテレビを見ている時、女装した男の人がテレビに映っていた。  両親は笑いながら、気持ち悪いと言っていた。胸のどこだかわからない場所が痛んだ。  中学生になって大好きなサッカーもやめてしまった。彼らの匂いが、辛くなったから。  その頃のクラスメイトはいつも女の子の話ばかりしていた。俺は興味がないが適当に相づちをうっていた。  テレビの恋愛ドラマや映画がいつも男女な事に違和感があった。これが普通で俺がおかしいのだと世界中が教えてくれているようだった。  恋なのかただの性欲だったのか分からない。悪ふざけですぐにスキンシップしてくる奴がいた。遠慮なく肩に腕をまわしたり平らな俺の胸を揉んだりした。やめろと言ってもきかない。殺意に似た欲望を感じる瞬間があった。そいつを本当に組敷いて犯してやろうかと思った。言うまでもなくそいつは毎日の俺のおかずになっていた。  どんどん違和感が大きくなっていく。  やっぱり自分は変なんじゃないか、もしそれが知れたら世界中がどんな風に俺を見るのだろう。だから俺は、友達を作りたくなかった。  高校に入学して、すぐにその人に視線を奪われた。クラスメイトの有田裕貴。その感情は恋愛なんてそんな生易しいものじゃなかった。彼が見る者のすべてに嫉妬し、彼が触れた物すべてを持って帰りたかった。彼の呼吸音が聞こえる場所にいられることが幸せだった。違和感なんてなくなっていた。その時は、世界中から気持ち悪いと言われても平気だと思った。世界中に知らせたいくらい裕貴が好きで好きでたまらなかった。  だから、死ねと言われて死のうと思った。  それ以外、考えられなかった。  裕貴のいない俺はただ生きている亡霊。  裕貴の命令に逆らえる訳がない。  自宅にロープを用意している。  あれを使う為に、昨日家を出たのだ。  スマホが鳴った。我にかえった。 「蓮さん?」  ミカの声だ。 「うん、どうしたの?」  「俺が追い出したからね!」  何を追い出したと言っているんだろう。 「どういう事?」 「俺が蓮さんの頭の中から追い出したからね!だから蓮さんの好きだった人が死ねって言っても聞いちゃだめだから!」 「蓮さんの頭の中は俺でいっぱいじゃなきゃ許さないからね!」   声が切羽詰まっていた。  ごめん。  でも嘘じゃないんだ。 「俺の頭の中は君でいっぱいだよ」 「俺の頭の中も蓮さんでいっぱいだよ」    朝の光の下で幸福で胸が満たされていく。  俺は生まれて初めて、希望というものを感じた。
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