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 自宅に帰ると、母親が血相を変えて出てきた。久しぶりにみた母は随分、疲れて、小さく、老いてみえた。  こんな風にしたのは俺だと思った。   俺が、一年かけてこんな風に母を追い詰めていたのだ。  元気で若々しかった母の顔には、不安と疲れが深く刻まれていた。  俺は、とても身勝手な事をしていたんだと思った。   しばらく母は注意深く俺の顔を観察していた。 「大丈夫、なんだよね、蓮君」   母は一言、俺に聞いた。  声がかすれていた。 「はい。心配かけてごめんなさい」  その言葉で母は泣き崩れた。俺は母の体を支えた、細く小さかった。肩が激しく震えていた。 「本当にごめんなさい」      肌寒いリビングで母にお茶を入れた。  ソファに座った母はそれを黙って受け取り静かに、それを飲んだ。  俺の為に作られた朝食がテーブルの上に置いてあった。 「蓮君…」 「あなたに、どんな悩みや苦しみがあるかは分からないけど…」  母が言葉に詰まった。 「蓮君に何かあったら」  母が顔を手で覆った。  何かあったらの何は口に出すのも避けたいのだ。 「お母さんは生きていけません」  悲痛な訴えだった。    胸が締付けられた。 「お母さん、俺は大丈夫だから」   安心させられる言葉がみつからない。  なぜなら、俺は母にとって口に出す事も避けたい事を実行しようとしていたのだ。 「お母さん、本当にごめんなさい」     俺は何も分かっていなかった。  両親にいつも守られていたのに、こんなに心配をかけてしまっていた。  昨日から、身勝手な俺は一度も母が心配している事など、考えもしなかった。  こんな自分は早く死んでしまった方が両親の為になると本気で思っていた。  よく考えてみると、俺は健康な19歳の息子ではないのだ、引きこもりの息子がフラッと何も言わずに家を出て、一晩帰らなかったら良からぬ事が起きたと思うのは当たり前の事だった。  今日だけに限った事ではない、いつも食事を作って部屋に運んでくれていた母に俺は無関心だった。  そんな、想像力のない自分が恥ずかしかった。  母の作った朝食を一年振りにリビングで食べた。  
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