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「分かりました。俺はいつでも空いているので時間と場所をミカさんが決めて頂けますか?」
「では今週の日曜日、○△広場の時計の下に午前11時に来てください。俺はグレーのパーカーを着て行きます。近くに来たらラインしますね♡」
日曜日がやって来た。俺はこの一週間の間にネットで服を買った。なぜか、俺が選ぶと全部が黒になりがちだが、インナーに白のシャツを入れるだけで全身、黒をさけられた。単純なコーディネートだが目立たなくて気に入っている。身長のある俺は、目立つのが嫌で猫背になる。伸び切った前髪少しだけ目が隠れるくらいに切ってみた。昔からこれ以上切ると恥ずかしくてたまらなくなるのだ。
俺の顔は怖い、有罪面だ。奥二重の上った目、骨張った鼻筋、薄くて大きめな口唇、いかつい輪郭。見るからに陰湿な表情。笑うとそれはそれで怖い。両親には申し訳ないが、もう少しだけ優しいお顔立ちに生んでくれれば人生が変わっていたと思う。そのミカと言う人もこの俺を見て逃げ出すんじゃないだろうか。
11月の最後の週末。晩秋の風が肌をさらう。木々の落葉が季節の変わり目を物語って いた。実に1年ぶりに外に出た。外気の冷たさが俺には痛く感じた。時刻は午前10時45分。待ち合わせ場所に到着した。
やっぱりのこのこ来ては見たものの、急に不安になってきた。帰りたい。引きこもりの俺にはハードルが高すぎた。ワンデーすら外に出られない俺がワンナイトスタンドなんか出来るわけがないのだ。逃げよう。そんな事をあたふたと考えているとライン電話が鳴る。
「後ろにいます」
あっ遅かった。声がした。
「こんにちは。蓮さんですか?」
完全に遅かった。
「ミカです。待ちましたか?」
「いえ、今来た所です」
全身から汗が吹き出した。
「良かった。とりあえず食事に行きましょうか」
人懐っこそうな笑顔で彼はそう言った。
あり得ないくらい綺麗な人だった。
身長は俺の肩位まである。小柄ながら手足が長く、綺麗な骨格をしている。小さな顔に、大きな瞳、通った鼻筋、少し厚めの赤い口唇。髪はアッシュグレーにカラーリングされ綺麗な耳が見えるように綺麗にカットされている。左耳にはピアスが二つ開いていた。言っていた通り、大きめのグレーのジップアップパーカーを着ていた。
やばい、完全にリア充だ。あまりの外見の良さに圧倒されてしまった。こんなおしゃれ番長が、俺とワンナイトスタンドしてくれるのか?
「ごめんなさい、あんまりお金ないからファーストフードでもいい?」
「はい、なんでもいいですよ」
促されるまま店に入った。
適当に、注文して席に着いた。ミカは紙のお手拭きで手を拭きながら俺を見ていた。居心地が悪くて目を伏せる。
「かっこいい人でびっくりした。蓮さんイケメンだね」
なっ何をおっしゃるうさぎさん。
「背が高いし、肩幅あるし、目元がクールだね」
目付きの悪い有罪面としか言われたことがない。
「ごめん、俺うるさいでしょ、蓮さん静かな人だからこういうの苦手?」
リア充に気を使わせている。
「いえ、緊張してて」
「大丈夫だよ、俺なんかに緊張しなくて。食べようよ」
そう言ってミカはハンバーガーにかぶりついた。綺麗なのに豪快な食べっぷり。包容力のある物腰。俺もハンバーガーに手を伸す。
少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
でもそれは束の間の事だった。
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