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すべての可能性は否定できない
リンが出て行って3日過ぎた。
この部屋はリンの借りている部屋だから出て行かなきゃならない。
20歳になったからって急に大人になれるわけじゃない。
不動産屋に行くと保証人がいるだとか、予算が少なすぎるとか、なめた事ばかり言われ何も出来ずに帰ってきた。
3日で部屋は荒れ、洗濯物がたまり、台所は食器であふれた。
その日の昼過ぎに玄関のチャイムが鳴った。
セールスか宗教の勧誘かだろう。
無視していると外からノックされた。
「リン?いる?」
ピンポーン、ピンポーン、ドンドン、ピンポーン、ドンドン。
「誰だよっっ!」
しかたなくドアを開けるとそこにいたのは大石だった。
「りょう君、リンは?」
「知らねー」
「喧嘩したの?」
「知らねー」
「リン、仕事辞めたんだ。電話にも出ないから心配になって。家にいないなら待たせてよ」
「アイツはいない。帰って来ない。帰れ」
「帰ってこないって何だよ?」
「うるせーなぁ!」
「りょう君、まさかリンを殺したの?」
「はぁっっ!!」
見当外れな大石の言葉に大きな声を出した。
「君って保険金かけて人殺したりしそうじゃん」
とんでもない誤解だ。
「あんた失礼な奴だな、でもそういう事するのリンの方だから」
どうして、あの事をコイツに話したか分からない。
誰でもいいから聞いて欲しかったのか、可能性を否定して欲しかったのか、その両方なのか。
ウリの事で、もっと軽蔑されると思ったが、大石はその事には触れなかった。
「あり得ないよ。リンは絶対に人を傷つけたりしない」
大石は言い切った。
「患者さんにリンがどんな風に向き合ってきたか俺は見てきたから分かる」
「でも俺の事、GPSで監視してたし、俺の事、沢山隠し撮りしてたし」
「あっそれはしてるよ」
それについてはあっさり肯定した。
「やっぱり」
「りょうちゃん、りょうちゃんって君のことばっかり話してさ、溺愛してたもん。騙されて捨てられるんじゃないか心配してたんだ」
大石はため息をつく。
「りょう君って馬鹿なんだね」
なんの脈絡もなく、唐突に大石は言った。
「はっ!」
「だって画像なんて今、簡単に加工出来るじゃん。小学生だって知ってるよ」
スッゲー、見下してくるな、コイツ。
その位知ってるわ!
「でも本物にしか見えなかった、加工したにせよなんでリンがそんな物持ってんだよ!」
大石はそれについて考えてた。
「どうしてリンが画像を持ってたのかは分からないけど、誰かがリンに何かを警告してるのかな?」
何かとは?
「全く意味が分からない」
「りょう君、馬鹿だからね」
さっきからサラッと馬鹿とか言うよな、コイツ。
「大体何でリンが出ていってんの?りょう君も犯罪者の家に住む?君の方がやばいんだがけど」
「仕方ないんだよ!住むとこねーんだから」
「本当に馬鹿な子」
「うるせー!!3回目!!」
大石はリンと俺と3人で会ってもいいと言った。
大石は完全に否定したけどまだ、リンと二人になるのは怖かった。まだ、すべての可能性を否定できない。
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