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記憶、催眠
桐生さんの家の30畳くらいあるリビングは慌ただしかった。業者なのか、撮影機材の搬入をしている。カメラも3台、レフ板、マイクやベッドも搬入されていた。
「こっちへおいで。りょう」
「何があるんですか?」
「出版社のお偉いさんが君の撮影を見たいそうだよ。あとで他のモデルさんも来るから仲良くしてね」
桐生さんは微笑んで言った。
現場のピリピリとした緊張感伝わってくる。あちこちに桐生さんは指示を出している。
「こっちの部屋でメイクをしよっか」
桐生さんに言われるまま台所に連れていかれた。
「緊張してる?」
「まさか、こんなに沢山人がいるなんて」
「ごめんね。だけどあの業者が帰ったら関係者以外いないから」
温かい紅茶を手渡された。
甘い。甘さの奥に刺すような苦味のある紅茶。
「リラックス効果のある薬草を入れてあるんだ」
「ありがとうございます」
一気に飲み干した。
!!
「なーんてね」
「その紅茶、催淫効果の高い媚薬入りだよ」
えっ?
サイインコウカ?ビヤク?
その刹那、桐生さんの顔がグニャアっと歪んだ。
言葉を咀嚼する前に体に異変を感じ、踞る。
「ウフフ。りょう、薬効くのはやぁい。この前から効果を試したくてぇ〜色んなぁ飲み物に混ぜてみたんだけどぉキメ過ぎて落ちちゃうんだもん」
桐生さんは、まるで別人格が取り憑いているようだった。今までそんな語尾を伸ばすような話し方する所を一度も見たことがなかった。
「りょうは今から自分の意志では体が動かせなくなる、5、4、3、2、1」
体が動かなくなる?焦って体を動かすとピクリともしなかった。
金縛りにあっているみたいに意識かハッキリしているのに体が言う事をきかない。
桐生さんは静かに微笑んでいた。
「どっどうして?」
「りょうって簡単に催眠かかるから扱いやすいんだよ」
恐怖が、紙に落した墨汁のように一気に広がっていく。
「そんな、目でみないでよ、りょう」
「これから何をするんですか?」
声が震えてる。
「フフ。みなまで言わせないでよぉ。」
それがろくでもない事なのは、はっきりしている。
「りょう、私はねぇもう君には興味が持てないんだ。大人になった君なんか無理なのにぃ〜りょうが物欲しそうな目をして見てくるものだからぁ………………気持ち悪くてたまらなかったんだぁ」
驚きとショックで言葉を失った。
「だけど、我慢してよかったぁ…………君の写真を見せたらさ、ある金持ちが買ってくれたんだよ。りょうは何と言うか他人の嗜虐心を刺激しちゃうんだろうねぇ…………君が嬲られるのが見たいんだって。全く金持ちって何考えてるんだか………だ、け、どぉ」
桐生さんは恐ろしい顔を近づけてくる。
俺の顎を指でしゃくり彼はこう言った。
「どうせならぁ……………綺麗に撮ってあ、げ、るぅ」
そう耳元で囁いた。
それが呼び水となったのか、体の芯にむず痒いような疼きが灯った。
何をされるか分からない恐怖で、膝がガクガクする。なのに薬は確実に胃で吸収され、血液で全身に周って、小さな種火は段々、炎と化し体を淫らに焚いていく。
「さぁ私の為にたぁっぷり稼いできてよぉっっっ」
真っ暗な穴ぐらに蹴り入れられたような錯覚を起こした。
残酷無比な桐生さんの冷たい顔を見て絶望で茫然とした。
馬鹿だ。馬鹿だ。俺は本当に救いようのない馬鹿だ。
後悔ばかりがよぎる。
体を乱暴に引きずられベッドに連れて行かれた。
桐生さんを含め5人位の人間がいた。
目隠しをされた。
瞬間、パニックに陥った。
「これやめてえええええー助けてぇー!!」
聞き入れてもらえる訳ないのに大声で叫んでいた。
「うるっせーなぁ!!」
誰かに腹を殴られた。みぞおちに喰らい、呼吸が止まった。口の端からダラダラ汚い涎が垂れ流れる。
もうカメラはきっとまわっている。
すぐに、口に猿轡を噛まされた。
これから散々、好き勝手にいたぶられる。
抵抗できないまま、色んな方法で。
考えただけで身震いした。
この瞬間に心臓が止まればいいのに。
死んでしまいたい。死んでしまいたい。
この後悔と一緒に。
目隠しの中で涙が滲んでいく。
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