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「さて、作戦計画を立てよっか。執事、人間に戻って!」
ソファに下ろされ私は人の姿に。服を着ている間これまでと違って葵はそっぽを向いていた。意識してくれたようだ。
まあ例え恋人であっても全裸をジロジロ見つめる女は希有だろうが。
完璧な執事スタイルに戻るとソファで対面しながら計画の開始。
立場をわきまえご主人様の前での着席を拒んだものだが、「落ち着いて話せない」との理由から座れと命じられた。
本当は疲れないよう座らせたかったのだと思う。
なんだかんだ言っても葵は優しい。間接的にせよそれがはっきり伝わる。
さっきだって触れるくせに何気なしに毒舌を語ってしまい悪気を感じたのだ。
コウモリにさせ触れたのは落胆している様への気遣いや触れるとの証明のためだろう。
ただの高飛車女でないだけにやりやすさもやりにくさも感じる。
小娘と侮るなかれ、アメとムチを巧みに使い分ける器用さには脱帽。完敗だ。
そんなことを時々考えながら池澤瑞穂を救うための作戦計画は進む。
友人思いの葵は真剣で、適切な意見をバンバン発し瞳は終始キラキラと光彩を放っていた。
頼もしい主人だ。私のことも確実に守ってくれるに違いない。
そして私は執事。彼女のピンチには駆けつけ守りたいと思う。柄にもないので照れ臭いが。
そうしてまとまった実行日は明後日以降の夜。
曖昧なのは犯人(予想)の新山理美の行動予定を把握していないから。
彼女がひとりの夜がとにかく狙い目。ダメな場合は順延だ。
ん?念入りのつもりが振り返ると適当だな。
それでも夢中になりすぎて時間が経つのも忘れていた。いつの間にか夕食時。
外食の多い葵も今日は自宅ですませるようだ。
と、調理を始めた彼女が悪気なしにまたもとんでもないことを言い出した。
「ねえ執事の主食って何?ハエとかミミズ?」
こっ、この女、侮辱にもほどがある!なんて偏見!
コウモリは哺乳動物だ。高等なんだ。昆虫だけでなく果実や肉だって好むんだ!
それに人間の姿をしている時は肉や野菜を食べるぞ!筑前煮は最高だ。
箸もスプーンもナイフも使える。ステーキの食事マナーはセレブ並と豪語したっていい。
まあ今回は最初だし、ライスや熱いのは苦手など意外と偏食だから大目に見てやろう。
「ふーん、筑前煮ねえ。和食好きなバンパイアなんて初耳」
さすがの葵も素直に感心。私に自覚はなかったが珍しいのだろうか。
西洋のイメージがあるだけに違和感を与えるのかもな。
調理を終えた葵はいつ帰宅するかわからぬ両親を無視してテーブルでひとりお食事タイム。
「一緒に食べる?」
誘いは有り難かったが丁寧に首を左右に振ってお断りした。
先ほどの作戦会議はまだしも執事の身で食事には同席できない。
ご主人様が自分の部屋に引いてからこっそり食べるのが執事の美学。そこにはこだわりたい。
傍らでそう告げると葵は美味しそうなマカロニサラダを口元に運びながら「執事の鑑ね」とクスクス笑った。
親しみやすい笑顔だ。滞在3日目でしかないのに馴染めるのはこの気さくさのおかげだろう。
人助けを兼ねたドキドキの脅迫作戦も楽しみだし、しばらくは退屈せずにすみそう。
今夜からセリフの練習かな?バンパイアの立場をフルに活かして犯人に恐怖を届けたい。本番が本当に楽しみだ。
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