執事、スパイになる

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新山理美の自宅は郊外の一軒家。本人は大学にいて不在だが専業主婦らしき母親が在宅していた。 ちなみに私が動いたのは夕刻だ。コウモリの姿で日中の太陽は厳しい。 その姿で開いた窓から侵入。不法侵入であるがコウモリなので罪悪感は薄い。 バタバタとリビングを飛び回り、目に止まったのがスマホだ。おそらく母親のものだろう。 瞬間、葵の推理が頭をよぎった。 『理美はスマホを2機所持してるおそれアリ』 ダメもとで母親が部屋を退いた隙にスマホを物色。もちろん人間の姿に変化して。 アドレスや履歴を確認したがそれらしい形跡はない。まあその都度削除してる可能性は高い。 しかし私は頑張った!ここからを誉めてもらいたい。 『い』と文字入力してみたらなんと池澤瑞穂の名前が一発変換。 母親のスマホなのにこれはおかしい、と疑惑を深めた私はそれらしい文章を幾つかポンポン打ってみた。 『傷つける』『別れろ』『オマエ』などの使用頻度の高そうな言葉を打っていると、学習機能によりある文章ができあがった。繋げると。 『傷つける。コンビニにいたよね?ずっと見てた。彼氏と別れて僕と』 文章はそこまでしか繋がらなかった。出だしも途中であるし。 けれど瑞穂のもとにはストーカー的なメールも届くと聞いている。この内容はほぼビンゴだろう。 母親がこんなメールを書くはずがない。このスマホを使って理美はストーカー男になりすまし瑞穂に嫌がらせメールを送っていたのだ。 * 得意げに話を締めくくる。大手柄に葵も絶賛してくれると期待していた。 だがこの女の興味はそこになく別の部分に存在した。 「執事、もしかして全裸でその作業したの?」 なぜここでその話題を出す必要があるのか! 気になったとしても心の中で留めておけばいいものをわざわざ! そう、確かに私は全裸だった。仕方ないだろう。コウモリから人間になって着替えなど持ち合わせていない。 見つかったら変質者だし私だって恥ずかしい。周囲をやたら気にしてドキドキしながら頑張ったんだ。 誰のために動いたと思ってるんだ?変態扱いの眼差しはやめて頂きたい。 動揺が伝わったのか、葵は同情混じりの苦笑を残しそれ以上の追求を避けた。 続いて、称賛も主人の器量とばかり惜しげもなく誉めてくれた。 初めからこれだけ言えばいいのに。 「よくやったわ執事!理美が犯人なのはこれで間違いなさそうね!あの女、私を騙した罪を思い知らせてやるわ」 え?友人のためでないのか?主旨変わってるぞ。 まあ葵らしい宣戦布告。こうでなくては反撃もできない。 「そうと決まれば実行に移るしかないわ。決行は明日にするわよ!」 「承知しました」 勇ましい主人の影響か私の士気も高い。やる気満々、即答してお辞儀をした。 池澤瑞穂を嫌がらせメールから救うための作戦。実行日は明日の夜と定まった。 緊張もあるが楽しみが上回る。今夜は予習し演技に磨きをかけなくては。 そう、私の役目はバンパイアとして新山理美を脅すこと。最高の演技で相手を後悔させてやる!
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