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待ち合わせ場所は計画前に立ち寄ったデパートの駐車場。
すでに閉店時間ではあるが点在するオレンジ色の街灯のせいか明るい。
私は一足先に到着を果たして木の枝に留まり主人を待っていた。
そして見つけるとバタバタと翼を羽ばたかせ頭上を旋回。
気づいた彼女は立ち止まって自分の肩を指差した。
心得た私はゆっくりと近づく。が、葵の肩幅はあまりに狭くて上手く着地できなかった。
頭部は肩、後ろ足は胸にベッタリ張り付きようやく着地。
ずり落ちないよう爪を服に引っ掛ける。
服を傷めないか気にかける私であったが、降り注いだ声に思考はピタリと中断した。
「執事のえっち」
いたずらめいた声だったので怒りや嫌悪はないのだろうが、私は軽くドキドキ。
わ、わざとじゃないぞ!偶然胸元に足が当たるサイズだったんだ!正当防衛だ!
ちなみにここで言うサイズとは私の体長のことだ。葵のバストではない。念のため。
とはいえ抗議に興奮したのは私だけ。葵にはどうでもいいらしく、無言で私を落ちない位置に手直しして歩き始めた。
◆
電車とタクシーを利用して遠い鬼ヶ島から北村家に帰宅。
その間カバンに入れられていた私は息苦しさから解放されやっと自由の身に。
真夜中ではあるもののまだまだやることは残されており、自室でビシッと執事スタイルに整えた。
ダイニングルームで葵は私を待っていた。テーブルにはウーロン茶入りのグラスがふたつ。
長話を予想してのものだろうが、私の分まで用意してくれ恐縮だ。
「申し訳ありません。いただきます」
椅子に座ると飲み物の謝礼をし、すぐに本題に入った。葵のそわそわ感がビンビン伝わったから。
22時の作戦開始からの出来事を順を追って語る。
葵は時おりウーロン茶を口に運びながら真剣に私の話を聞いていた。
いよいよラスト。コウモリ姿での襲撃に話が及ぶと葵は疑惑の眼差しを私に向けた。
う、この視線の意味は何だ?
遠慮なく発言する女だ。納得いかないらしくズバッとグチが飛んだ。
「それだけであの陰険女が引き下がるかな。もっと怖がらせてやればよかったのに」
キツいお言葉に私は内心でやはりそう来たか、と思いつつ苦笑い。
まったくもって気の強い女である。葵が居合わせなくて理美も助かっただろう。
とりあえず私はご主人様に頭を下げる。
「申し訳ありません。ですが理美は十分に恐怖を感じている様子でしたし大丈夫かと」
「曖昧な想像は聞きたくない。ミズホのためにも私は絶対が欲しいの。執事、どっちなのか断言なさい」
真摯な瞳が私を見つめる。場違いだが綺麗だ、と見惚れてしまった。
友人・池澤瑞穂のために葵は真剣なのだ。危険をかえりみず自身も頑張った。負けは認めたくないのだろう。
私だって頑張った。気持ちは葵と同じだ。答えはひとつ。胸を張って主人を見返した。
「絶対に事件は解決しました。池澤様に危害は訪れません」
「よろしい。信じるわ」
そうしてフッと笑った。
思えば彼女の表情がやっと和らいだ瞬間ではなかろうか。
図太い神経の持ち主に見えて繊細な部分も多少なり持ち合わせているのだ。
人間味あふれる魅力的な女。もうしばらく時間を共有し色んな部分を知りたいと思う。
と、誉めた矢先に後悔は訪れた。魔女は安息を好まないらしい。
「さて疲れたあ。シャワー浴びて寝るから後片付けよろしくね」
「かしこまりました」
「執事も疲れたでしょ。一緒にシャワー入る?」
な、な、な、な、何を言い出すこの女!
とんでもない発言に私は顔を熱くさせて立ち尽くし、葵の爆笑をすぐに耳にした。
「あははっ!冗談に決まってるでしょ。おやすみ執事。また明日!」
片手を振って呑気に退く彼女に私は挨拶も文句も、何も言い返せなかった。
まるっきりペット扱い。悔しい!あとでシャワー覗いてやろうか!
そんなこんなで喜怒哀楽を楽しんでる私。今日は鬼退治もすませたし、明日からは何があるかな。
でも確かに疲れた。とりあえずは寝坊しないこと。明日の目標はまずこれだな。
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