執事の生活

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やることのない私は暇だった。 与えられた自室でコウモリの姿に戻り、天井から平行に吊した枝で昼寝をしていても落ち着かない。 こんな私がどうして逃亡もせず屋敷に残留しているのか。 それは不覚にも執事職に興味があり楽しそうだったこと。 そして葵との生活に刺激を感じ、様子見を決め込んだからだ。 なのに今のところは予想に反した退屈三昧。このままだと2、3日後には逃亡もありえる。 プルルプルルッ… お、電話だ。 人間の姿になり買ってもらったスマホを取る。ちなみに全裸だがひとりなのだし気にしない。 「はい?」と応答すると、現在ひとりしかいないこの番号を知る通話相手はいきなり高飛車に命じてきた。 「執事!教科書忘れた!持って来て!」 甘えるな、と言いそうになったが私は執事。命令には背けない。仕事を歓迎すべきだろう。 咳払いをし忠実な執事に気持ちを切り替えて用件を質す。 「どの教科書をお持ちすればよろしいのでしょうか」 「フランス語!部屋の机の上にあるわ。勝手に入っていいから持ってきて!」 「わかりました。あの、私の外出時の服装はどうすれば」 「当然執事スタイル!基本でしょ!」 聞いただけなのに怒らなくても。魔女っぷりは健在。まったくもって可愛げのない女だ。 それにしてもこのスタイルでの外出は恥ずかしいな。 私服で移動して近場で着替えるか?洗面所や中継点を利用したっていい。 そういえば最近中継点に行ってないな。あいつ元気かな? 仲間の顔を思い出しつつ便利な『中継点』の新しい使い道を発見して小さな感動に浸った。本来の使い道といえは……。 コウモリの姿では荷物を運べず屋外で人間の姿になりたい時に着替えに苦労する。 全裸で公共の場に立つ愚かさは私たちバンパイアにはない。 そんな時に役立つのがこの『中継点』なのだ。 バンパイア仲間で設立されたお助け宿で、主に着替えなどに活用する。この地区だと中心街に2カ所設けられている。 昼間ならサングラスをかけ、初めから人間の姿での外出も多い。 だが夜はついコウモリの姿で飛び回ってしまう。 突然人間の姿が必要になった時に中継点は重宝するのだ。 用件がある場所の最寄りの中継点に立ち寄り、レンタル衣服を着て人間の姿で何食わぬ顔をして外出する。 靴やカバンも陳列されているからコーディネートが楽しい。バンパイアはオシャレなのだ。 でも今回は控えよう。葵に私服がバレたらさっきよりもヒステリックに怒鳴られそうだ。 ふむ、と考え決断した。どうせこの先もこんなことは続くだろう。早めに慣れた方がいい。 わりとあっさり開き直って任務の実行。執事スタイルと決め込み大学を目指した。 そう、魔女の悪知恵に利用されたとも知らずに。
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