(1)始まりの隠し子騒動

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「どちらに向かわれますの?いまお話は無理かしら」 上品な口調と真摯な眼差しで男の長身を見上げる。どこか気弱な印象だ。 カインは正面を向いて一礼を施した。それから会話の開始だ。 「申し訳ありません。急ぎの用が。6時にいつもの場所で」 「ええ。あ……こちらは?信頼できる方?」 後ろめたい秘め事なのか、女は少し表情を強ばらせてアリウスの存在に今さら警戒する。 カインの態度が堂々としていたものだから、ついつい違和感なく会話を許し警戒心が鈍ったのだ。 「王女の世話係です。大丈夫、信頼に値する女性です」 気にしながらもカインを信じた女は、春のように穏やかな笑みをふわりと浮かべて退いた。 尋ねていいものか、それでも興味が上回りアリウスは遠慮がちに話しかける。 「貴族さま?」 青い花柄の綺麗なドレスに身を包んでいた。城内に現れることに珍しさはないが、供もつけずの単独行動はあまり見かけない。 まあ王子・王女は単独で城の内外を好き放題横行する例外中の例外だが。 秘め事であろうによほどアリウスを信頼しているのか、カインは曖昧に応じることなく説明した。 「男爵家ご令嬢のサラ様だ。ただし、いまの会話は内密にしてくれ」 語ると言ってもこの程度。そのうえ口止めまで。 この状況ではアリウスの返答も限られる。 「はい……わかりました」 どこか後ろ髪をひかれるような、胸がチクリとするようなそれが、この場での最後の会話。 彼らは当初の予定を遂行すべく、歩を進めたのであった。
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