男装の麗人

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カインたちの苦労も知らず、その頃のパウルとフレアは国都から最も近いレトの街で呑気にゲラゲラ談笑中であった。 それも貴族屋敷でシルクの夜着を着込み、ふわふわのベッドに腰掛けて、だ。 足をブラブラ遊ばせながら、フレアは今日1日を振り返る。 口にしたのは自分たちが今ここにいる状況を生んだ『作戦』に因んだもの。 「父上うまく実行できたかな。アリウスたち今ごろ何してるかなあ」 夜半だというのにまだまだパッチリと瞳を開けた王女。 興奮して寝付けないのだ。父親譲りの好奇心と活発さである。 双子の兄は時おり眠そうに瞼を落としつつ、かろうじて意識を保ち返答した。 「もし失敗してたらオレたちバカみたいだな。何のために城を出たんだか。カインたちの出立を見届けてから出ればよかったな」 「もう出てしまったんだしグチグチ言わない!どっちにしろ私たちは旅行を満喫してればいいの」 前向きなのか楽観的なのか、失敗を恐れぬ妹の度胸のよさに兄は感心だ。さすが今回の作戦の発案者である。 王子たちが口々に語る作戦とは、16歳の恋に敏感な乙女フレア考案の『アリウスとカイン交際大作戦』であった。 それもこれも飴と鞭を使い分け、姉のような存在で頼れる世話役のアリウスのため。 カインに片思いの彼女の恋を成就させようと家出をでっち上げ、追跡の名目で城から誘い出しふたりっきりの旅を仕掛けたのだ。 父王をも作戦に巻き込み最後の重要な誘導部分を任せた。 兄が指摘するように結果はわからず終いだが、フレアは根拠なく成功を確信している。 忠義に尽くす男女だ。王の命令にきっと首を縦に振るだろう。それだけに騙した点は心苦しいがアリウスの恋のため。 何と言っても見た目はお似合いのふたり。気の強い者同士反発もあろうが、それ以上に気が合いそう。 5歳違いと年齢差も悪くないし、発案者として是が非でも成功させたいフレアであった。 そしてそして、抜け目のなさは天下一の王女である。自分の楽しみも忘れない。 ウトウトしだした兄を突然名指しして会話を突きつける。 驚きも露わに眠気を吹き飛ばして王子はビクッと腰を浮かせた。 容赦も配慮もなくマイペースに妹は力説する。 「パウル!明日はカーラントの屋敷に泊まろうね!元気かな。そのうち会いに行くと言っておきながら2年!王女を待たせるなんて最低よね!私から出向いて文句を言わなくちゃ!」 若々しい頬を紅潮させてカーラントと呼んだ男を非難した。 「オレに言わなくても」と兄は内心呟くが、利口な彼は反論を避ける。倍返しをくらうと、妹の性格をよく見抜いていた。 カーラントは2年前まで城内に居住していた貴族だ。 カインの友人だが剣士ではなく根っからの貴族。伯爵家の跡取りだ。 穏やかな性格の美青年で、フレアは今の積極的な性格のまま10歳年長の彼に友達以上恋人未満の感情をぶつけていた。 だが「城が飽きた」との理由で彼は故郷の西都ヴァルゴに帰ってしまった。 意外と健気な王女は素直に待ち続けたものの、もはや堪忍袋の緒が切れた。 この機会に屋敷に乗り込み平手打ちの一発を贈る予定である。 文句にすっきりしたのか彼女も眠気に襲われた。久々の馬車の旅による疲労も原因だ。 速やかに隣室に移動。心地よいベッドに横たわり、瞼を閉じるや寝息を立て始めたのだった。
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