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そして場面はフレアたちの現在地レトからふたつ手前の宿場町付近へ。
国都との中間地点でもあるが、華やかさも賑わいも皆無の地に王子たちとは異なる一組が存在した。
10代の呑気な男女から一転、こちら20代の男女は遅い休憩時間を月光だけが頼りの山中の森で迎えていた。
「あなただけでも宿屋に泊めるべきだった。すまない。城に近い宿場町ではオレは顔が広いから」
名だたる剣士が城外を徘徊していては余計な詮索を生む。極秘任務なだけになるべく人目を避けたいカインだ。
ただしそれが女性のアリウスには酷であろうと、付き合わせた責任から凛々しい顔立ちに影を落とす。
先刻の意地悪はこの表情によって吹き飛んだ。
惚れた弱みもあるのか、彼女は闇に慣れた瞳で確実に相手をとらえ誠意に応えた。
「気になさらないで!構いません」
「野宿なんて不似合いの人なのに」
「私は黙って従います。同じ行動で構いません」
「ありがとう。そう言ってくれると安心する」
フッと微笑み剣士は照れ隠しか話題を逸らした。4月の夜風が頬を撫でる。
「寒くないか?」
「外套を持参してきたから大丈夫。幼い頃から風邪とは無縁でしたし」
優しいカインに内心ドキドキのアリウスだ。
それに彼はジッとこちらを見つめたきり無言。何となく虚ろで体調の心配すらしてしまう。
その感覚はあながち間違いではなかった。彼は自らおかしな台詞を口にしだしたのだ。
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