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「不思議な気分だ」
「え?」
首を傾げるアリウスを黒い瞳に映す。
どんな仕草も絵になるな、と何だか彼女が眩しい。それを含めて疑問に応じた。
「綺麗な容姿なのに男装をして髪まで隠して。でも何を着ても似合う。幻想の中の人のようだ」
「ロマンチストなんですね」
「友人の影響さ。ああ、その友人が西都にいるんだ。王女たちも知り合いで、多分立ち寄るはずだ。オレたちも着いたら屋敷に寄ろうと思う」
「西都ならコンピ山のふもとの都市ですものね。確実に立ち寄ると私も思います。その前に王女たちとお会いできたら、それにこしたことはありませんけど」
男装の麗人はターバンからはみ出たこめかみの髪をそっと耳にかけた。
寂しそうな憂いな眼差し。容姿を誉められたとて無関心。王女たちの身を何より案じていた。
剣術には胸を張って教鞭を取る彼も、気の効いた弁舌は苦手だ。上手い慰めの言葉も見つからず、相槌を打つしかなかった。
「そうだな。さて寝ようか。明日も徒歩だ、休めるうちに休もう。国都に近い今でなければ治安が保証されないからな」
今でさえ歩道を逸れた森の中で灯りを排除し、盗賊などから身を隠しているのだ。
地方ともなれば命も危うい。見張りも必要になるし、睡眠は体力保持のためにも重要なのだった。
頷いたアリウス。けれど森の深い場所からは不気味な鳥たちの鳴き声。
周囲を見回しソワソワ。身の毛もよだつとはこのことだ。眠れるだろうかと不安になる。
隣に座る剣士に寄り添いたいが、彼は剣を抱いて寝る気だ。邪魔はできない。
そこでソロリソロリと少しだけ彼の近くに移動した。瞳を閉じていても吐息を聞き取れる位置まで。
たとえ自己満足でもこれで安心。臆病でいじらしく、加えて微笑ましい男装の麗人であった。
こうして終わった初日の夜。二組の男女が目指すは期せずしてとの言葉が適切なのか否か、西都ヴァルゴ。
楽観、不安をそれぞれ抱え、でも共通点も存在する。
道中何が起こるのか、まだまだ先の見えてこない未知の旅であった。
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