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青島朋美と
僕は或る日曜日の昼下がり、駄菓子屋さんで買い物をしてから学校に遊びに行くと、鉄棒で逆上がりの練習をしている朋美を見つけたのでアイスクリームのホームランバーを嘗めながらそっちへ向かった。
それに気づいた朋美は直ちに逆上がりの練習を止めた。彼女はスカートを履いていたのでパンツを見られると思ったらしい。
「やあ、奇遇だね」と僕は切り出した。「こんなとこで逢うなんて。」
「こんなとこって学校じゃない。」
「アハハ!そうだね、学校なら逢わない事もないよね」と僕は言いしなホームランバーを一口食べた。「それはそうと逆上がりの練習をしてたんだろ!」
「そうよ。」
「じゃあ、続けなよ。」
「いやよ。」
「えっ、何で?」
「何でって分かるでしょ!」
「あ、ああ、そうか、確かに」と僕はスカートを見ながら言って敢えて朋美から目線を外し、ホームランバーを食べることに専念して食べ終えると、白樺棒の焼き印を見て、「あっ、ヒットだ。ラッキー!」と呟きながら半ズボンのポケットに白樺棒を仕舞った。「まあ、パンツ見られるのは恥ずかしいことだから嫌だろうけど、スカート捲りされる時はそうでもないんじゃないの?」
「えー!何言ってるの?嫌に決まってるじゃない!」
「えっ、へへへ、そうかなあ。だって女子は男子が可愛い女子程、興味の有る事を知ってるから僕にスカート捲りされると恥ずかしいに違いないから嫌がっては見せるけど、私はそれ相応に魅力的に思われてるんだわっていう思いが生まれるから嬉しそうにもするじゃないか。青島にしたってさ!」
「えー!私は嫌なだけよ!」
「えー!そうかなあ。だって僕を追っかけてる時、笑ってるじゃないか!」
「えっ!だって、私・・・」と朋美が言葉に詰まってしまうと、僕はにんまりして、「ほら、ごらん。」と言った序に筋入り茶袋からチョコバットを取り出して彼女に差し出した。「これ、食べても良いよ!」
「えっ、良いの?」
「うん、サクランボ餅も都こんぶもサイコロキャラメルもあるからさあ、ブランコに座りながら食べようよ!」
「えっ、だって私・・・」と朋美がまた言葉に詰まってしまうと、「ああ、そうか、逆上がりの練習をしたいんだね。じゃあ、僕は独りで食べるよ」と僕は言ってブランコの方へすたすたと歩いて行った。
朋美が僕を引き留めたくても恥ずかしくて出来ないのを見越した上でだ。案の定、逆上がりの練習を続ける気にもなれず、どうしようどうしようともじもじしている彼女に向かって、「おーい!何してるんだよ!逆上がりの練習しないならこっちへ来なよ!」と僕は大声で呼んでやった。
すると、渡りに船を得た朋美は恥ずかしがりながらも僕の方へ向かって来た。
僕は朋美が傍まで来た時、流石にちょっと照れたが、自然と笑顔になって、「さあ、僕の隣に座んなよ。」と言うと、そんなませた僕に対し朋美は半ば呆れ半ば期待したらしく僕の横に座った。
態と僕が大人びた口調で、「いやあ、よく来てくれたねえ。」と言うと、朋美は可笑しがって微笑み返した。
「はい、チョコバット!」
僕に差し出された朋美は面映ゆそうに可笑しそうに受け取った。
「さてと僕もチョコバットを食べよっかな。」と言って僕はもう一本のチョコバットを筋入り茶袋から取り出して一口食べた。
「嗚呼、おいしい、うまいよね。」と僕がまだ食べていない朋美に言うと、彼女は相変わらず可笑しがりながらチョコバットを食べだした。
「君は食べ方が可愛いねえ。」と僕は褒めて朋美の機嫌を取った後、朋美の友達について言った。「そこへ行くと栗田は駄目だね。」
「どういう風に?」
「こないださあ、僕が桑の実を食べてたら栗田が僕の所に来て桑の実を物凄い勢いで食べ出したんだよ。だから、こいつほんとに女かよと思いながらそんなに食べたらみんなの分がなくなっちゃうじゃないかって注意してやったのにさっき桑の木見てみたらさあ、実がほとんどなくなってたんだよ。これは間違いなく僕が去った後、また物凄い勢いで食べたに違いないね。」
「ふふふ、随分な言い方に随分な想像ね。」
「いや、間違いないよ。全く下品な女だ。」と僕は扱き下ろしてからチョコバットをぼりぼりと言わせながら食い尽くした。「さあ、今度は都こんぶでも嘗め嘗めしながら食べてみるか!」
「嘗め嘗めだなんて大橋君こそ下品だわ!」
「いや、都こんぶは嘗め嘗めしながら食うもんだからね」と僕は言いながらそれを箱から取り出すと、本当に嘗め嘗め仕出した。
「まあ、やらしい!」
「ヒッヒッヒ、好いねえ、その言い種、君が言うと様になってて好いよ。」
「あら、どういうこと?」
「ヒッヒッヒ、その言い種も様になってて好いよ。」
「もう、大橋君ったら笑い方がいやらしいわ!」
「へっへっへ、そうかい、お詫びに、はい、都こんぶ!」と僕がそれをいそいそと差し出すと、朋美は鬱陶しそうに言った。
「私、まだ食べてるのに!」
「ハッハッハ!そうか、君のお口は苺みたいに小さいからなあ、さてとサイコロキャラメルでも嘗め嘗めしようかなあ。」
「また嘗め嘗めだなんて、もう嫌い!」
「へっへっへ、こんなことでプンプンする所がまた好いねえ。」
「好いねえ好いねえってほんとに大橋君っていやらしいわ!」
「ハッハッハ!いやいや、ごめんごめん。」と謝りながらも御満悦の僕であった。「ところでさあ、栗田がどうも、僕らに嫉妬してるみたいなんだ。」
「えっ!」と一言呟いた途端、朋美の顔が赤くなった。
「いやあ、何て言うかさあ、栗田は君のじゃなくて私のを捲ってよって望んでるらしいんだ。」
「捲るって?」
「また猫被っちゃって!決まってるじゃないか!スカートをだよ。」
「えー!そんな筈ないわ!」
「いやいや、君はね、何回も捲られた経験があるから栗田の気持ちが分からないだろうけど、彼女はねえ、僕が君のスカートを捲ったのを目の当たりにして君を羨ましく思い、妬ましく思い、また僕を憎らしく思い、恨めしく思ったのさ。」
「えー!あなたは女の子がスカートを捲られたらどれだけ恥ずかしい思いをするか、分からないから・・・」
「いやいや、納得できないならこう考えてみなよ。僕がこないだ君のじゃなくて栗田のスカートを捲って逃げて栗田が追っかけたとするよ。残された君はどう思うだろうってね。」
「う~ん」と朋美が唸って考え始めると、「これ、嘗めながら考えてみなよ。」と僕は言って都こんぶを差し出した。
「私、それよりキャラメルの方が好いわ。」
「そっか、確かにこんぶって言うよりキャラメルって感じだからな。」と僕は言いながらサイコロキャラメルを箱ごと朋美に渡した。
「それはまたどういうこと?」
「こんぶって言うとぬめぬめ黒々としてて田舎染みた野暮ったい感じがするけど、キャラメルって言うと、つやつや輝いてて洗練された可愛い感じがするじゃないか!」
「ふふふ、そう。」と朋美は然も嬉しそうに言うと、キャラメルを箱から一個取り出し、口の中に入れた。
朋美がおいしそうに嘗めているのを見て「納得できたでしょ!」と僕が問うと、「まあね。」と彼女はにっこりとして答えた。
僕は朋美が時折、ほっぺを膨らませてキャラメルを嘗めているのを見てサクランボ餅が食べたくなって、「あっ、そうだ、これがまだ有ったんだ!」と言って筋入り茶袋からサクランボ餅の入った箱を取り出すと、セットで付いている爪楊枝を使って食べだした。
「嗚呼、もちもちしててうまいなあ・・・」
それを横目に朋美がすっかり和んでキャラメルを嘗めている。で、今だ!と思った僕は、さっと右手を伸ばしてスカートを捲った。
「うわあ!ピンクだ!君、勝負パンツ履いて来たのかい!」と僕が言うなり立ち上がって校庭を走り出すと、「しまった!油断しちゃった!」と朋美は弾んだ声で叫んだ。内心、彼女は恥ずかしくなるも嬉しくなったのだろう、僕が振り向いてみると、矢張り笑いながら追っかけていた。
僕はスカートめくりしてから逃げる時、走り出しこそ速いが、いつも途中から態と疲れた風を装って減速して追っかけて来る女子に捕まるのだ。そして抓られたりどやされたりしながら女子とじゃれ合うのである。だから朋美ともそういうことになって、「おいおい、そんなに抓るなよ、痛いから・・・」
「ふふふ、これくらい我慢しなさいよ!」
僕がもっと抓って欲しい癖に、「いててて、もうしないからやめてよ!」と言うと、「ふふふ、嘘ばっかり、エッチな子はこうしてやるんだから!」と朋美は言ってからいそいそと僕を抓るのだ。
「いってー!いてえよ、やめろよ」と言いながらも僕は嬉しいのだ。
「ふふふ、エッチな子にはお仕置きしてあげるの!」
「いってえ、あ、あのねえ、エッチエッチって言うけどさあ、人の事を言えた義理かよ!」
「えっ、どうして?」
「どうしても何も何処の子供がピンクのパンツなんか履いて来るんだよ!」
「えっ、日曜日くらいいいじゃない!」
「しかしねえ、小学五年生の僕には刺激が強すぎるんだよ!」
「じゃあスカート捲らなきゃいいじゃない!」
「いや、スカート履くからいけないんだよ!」
「そんなの女の子のファッションだからしょうがないじゃない!」
「ズボンだって女の子のファッションになるでしょ!」
「でも、私、スカートの方が好きなんだもん!」
「そうなのか、それじゃあしょうがないけど、しかしさあ、捲らなくても想像しちゃうから何か堪らなくなるんだよなあ・・・」
「もう、やだー!想像してるの!エッチなんだから!」と朋美は叫ぶが早いか僕の尻を強か抓った。
「いってえ!もう止めろよ!何回抓りゃあ気が済むんだよ!」と僕が苦情を言いながら尻を摩って殊更に痛がると、「ふふふ、ああ、可笑しい。」と朋美はとても可笑しがるのである。
僕にとって可愛い子に抓られるイコール可愛い子とじゃれ合うということになり、こうなることが目的でスカートめくりをするようなものだった。そしてもっとじゃれ合う為にちょっと触るような仕草をすると、「うわあ!やだ~!だめ~!大橋君のエッチ!」と叫ばれ、引っぱたかられ、更に目的を果たすのである。
「おう、いて、散々な目に遭った。それにしても何だなあ、目にピンク色が焼き付いちゃったからサクランボ餅がまた食べたくなった。ピンクの寒天ボーも食いたいな、それとピンクのマーブルチョコにピンクのラムネにピンクにびっくりしたからビックリマンチョコも食いたいなあ。」
「アッハッハ!どんだけ食いしん坊なの!大橋君ったらピンクピンクってもう、やだー!私をピンキーみたいに見ないで!」
「い、いや、どうしたってピンクが・・・」
「もう、やだー!また想像してるのね!このエッチ!」と朋美は叫ぶが早いか僕のほっぺに到頭、平手打ちを食らわした。その途端、「うぎゃー!いってえ!」と僕は本当に痛くて叫んだ。しかし、朋美はそんなに悪びれることもなく言った。
「あー!ごめんね、私、つい、やっちゃった!」
「き、君は…」と僕はほっぺを摩りながら言った。「そんな謝り方でも許されると思い上がっていて、ほんとに許されるから得だよね。」
「あら、許してくれるの?それじゃあ、申し訳ないわ、お詫びに、はい、これ!」
「どて!」と僕は音を立ててひっくり返ってしまった。なんと朋美が自らスカートをめくってピンクのパンツを見せたからだ。
「私、お菓子もらったのにビンタなんかして、ほんとに申し訳なくって大胆になっちゃった。うふ!」
僕は衣服に付いた砂埃を払いながら立ち上がり、「君、ひょっとして露出狂なんじゃないの?」
「えっ!いたいけな乙女を捕まえて何、言ってるの?そんな訳ないわ!私は普通の女の子よ!」
「へっへっへ、その普通というのが曲者でねえ、君みたいな子は一々言うことに裏があると言うか、誤魔化しがあると言うか、まあ、よく分からないけど・・・」
「まあ!私をペテン師みたいに言って!それは下種の勘繰りというものよ!」
「ああ、そうかい、何せ、僕は人の奥の奥まで穿鑿するのが好きな少年なものでねえ・・・」
「まあ!やらしい少年だこと!」
「へっへっへ、その言い回し、気に入ったぜ!」
「何、気取ってるの?」
「へっへっへ、はあ、しかし、追っかけられたり抓られたりして酷く騒いだから腹減っちゃった。何か奢ってよ!」
「えっ、お金ないの?」
「うん、小遣い全部使っちゃったし桑の実もないしね。小遣い惜しいなら栗田に文句を言いな!」
「別に文句なんかないわ。私、ほんとに申し訳なく思ってるんだから。」
「えっ、そうなの、へえー、君って案外、義理堅いんだね。じゃあ、もう一回パンツ見してよ!」
僕がそう言った途端、朋美はにやっと笑うなり僕の二の腕を強か抓った。
「いってえ!」
「調子に乗るんじゃないの!はい、30円。」
「えっ、一緒に行かないの?」
「うん、私、逆上がりの練習がしたくなったの。」
「あっ、そうか、じゃあ、今日はこれでお別れということで。」
「そうね。」
「そんじゃあ、バイバイ!」
「バイバ~イ!」
そんな訳で朋美と別れた僕は、駄菓子屋さんでイチゴ大福を三つ買った後、急いで学校に戻り、生垣の隙間から逆上がりの練習をする彼女をイチゴ大福を食べながら覗き見し出した。
「ほほお!ピンク炸裂!一攫千金だ!スカートめくりより断然効率良いぜ!すげー!すげー!」
朋美に何回も食らった痛みをちゃっかり埋め合わせる僕であった。
興奮冷め止まぬ儘、帰途に就いた僕は、その道中、黄昏れて来て空を見上げれば、鴇色をした夕焼雲が広がっていて、それを眺める内、朋美のピンクのパンツを連想して更に興奮するのだった。
帰宅後、夕食に就いた僕は、奇しくも身がピンク色に輝く鯛の姿造りが彩りよく盛り付けられているのを眼前にして母に聞いた。
「お母さん、今日は何か目出度い事でもあったの?」
「そうよ、お父さんがねえ、課長に昇進したの。」
「へえ、そうなのか、おめでとう、お父さん!」
「ありがとう、正広。さあ、お前もお食べ。」
「うん。」と僕は返事してから特にピンクがかったお造りを選んで箸でつまんで山葵醤油を付けて食べてみた。
「ぷりぷりしててうめえ!そう言えば、僕も目出度いことが有ったんだ!」
「えっ、どんなだい?」「どんな?」と父母が尋ねると、「それは言えないよ!」と僕は答えるなりにやにやしながら想像を逞しゅうして朋美のピンクのパンツを思い浮かべるのだった。
それからというもの僕は朋美とは同じクラスだったから彼女を強く意識するようになり彼女も僕を強く意識するようになったに違いなく僕らは仲良くなって行って小学五年が終わり、春休みの或る日、初デートするまでに親しくなった。
待ち合わせたのは小学校だった。僕はませてると言っても女の子程、ファッションには興味がないから自分の格好には無頓着でいつもの外出時と変わりない出で立ちで約束の午前10時に間に合うように小学校へ向かった。
その間、僕は朋美がピンクのパンツを履いて来るに違いないと思っていたからどうしたらピンクのパンツを拝めるだろうかと考えていた。
デート中にスカートめくりするなんてマナーに反してるし、第一、そんなことやったら嫌われかねないし、どうしたもんかと流石の僕もいいアイデアが浮かばなかった。
小学校の側道まで来ると、生垣越しに朋美がブランコに座って待っているのが分かった。
僕は彼女を覗き込んで驚いた。予想以上におめかししていてリボン付きシュシュや樹脂ヘアピンで飾ったポニーテールも凝っていておくれ毛を強調したり三つ編みにしたりしてガーリーに仕上げているし、襟ぐりと袖口をメロウ使いに仕立てたフェミニンな長袖リブTシャツも勿忘草色で真っ白なフレアミニスカートとのコーデがばっちり決まっているが、何と言っても驚くべきは、そのフレアミニスカートの丈の短さだ。
今、青島の正面に行けば、ピンクのパンツを即、拝めるぞ!そう思った僕は正門ではなく裏門から校庭へ入って行き、ブランコの正面に向かって歩いて行った。
その時、僕が正門から来るとばかり思っていた朋美は、正門の方に注意を払っていたから近づいて来る僕に一向に気づくことが出来ない。
それを良い事に僕はどんどん前進して行ったが、朋美が行儀よく股を閉め、しっかり膝を合わしているのでパンツはちらりとも見ることが出来ない。よっぽど僕が近づいた時、漸う気づいた朋美は思わずブランコの鎖を握りしめていた両手をスカートの裾辺りに添えてびっくりしながら叫んだ。
「黙って来るなんて卑怯だわ!」
「いや、卑怯ってことないでしょ。態々そんなミニ履いちゃってさ。」と僕は言いながら朋美の横のブランコに座った。
「そんなに見ないで!」
「見ないでって見せる為に履いて来たんだろ!」
「そんなに露骨に女の子を責めないで!」
「いや、責めないでってさあ・・・」と僕は言いながら或る漱石の言葉を捩ることにして、「私は露出狂になる。しかし決して不道徳と言ってはならん。もし不道徳だなどと言えば私の顔に泥を塗ったものである。私を侮辱したものであると主張するようなものだから当然、責めるよ。」
「何その理屈。そんなこと言ってまで私を責める気!」
「いや、だって、どうしたって僕の目が・・・」と僕が朋美の太腿に熱視線を注ぐと、「やだー!やらしい、大橋君のエッチ!」と朋美は言いながら太腿が隠れる訳ないのにフレアミニスカートの前裾を両手で無理矢理引っ張った。
「何だよその真似!エッチって青島がエッチな格好をするからいけないんじゃないか!」
「私をエッチだなんて酷いわ。これは女の子のお洒落というものよ!」
「ああ、そうかい。全く君には敵わないよ。」
ふふふと朋美が含み笑いをしていると、僕はにやにやしながらずばりと聞きたいことを言った。
「ねえ、ピンクのパンツ履いて来たんだろ?」
すると、朋美は笑いながら僕の二の腕を力を込めて抓った。
「いってえ!」
「ふふふ、あのね、初デートで、いきなりそんなこと聞く人いる?」
「ハッハッハ!確かにデリカシーに欠けてるよね。」
そう笑いながらも抓られた所を痛く思い、そう言いながらも、そんな大胆な格好をする君がいけないんだよと僕は思うのだった。
「君さあ、今も笑ってるけど、僕が困ってるのを面白がって笑ってるんだろ!」
「えっ、何、急にそんなこと言って?人が困るのを面白がるなんて卑しい人のする事じゃない!」
「そうだね。」
「私の品性を侮辱する気なの?第一、ちょっと笑っただけじゃない!こんな事で文句言うなんて大橋君って案外、気が小さいのね。」
「へへへ、やっぱりそう来るか。僕さあ、漱石の『吾輩は猫である』を読んだんだけどさあ、その中にこういう一節が有るんだ。『侮辱したと思うのは事実かもしれないが、人の困るのを笑うのも事実である。であるとすれば、これから私の品性を侮辱するような事を自分でしてお目にかけますから何とか言っちゃ嫌よと断るのと一般である』ってね。」
「それと私が一致するって言いたいの?」
「うん。更に漱石はこう言ってるんだ。『僕は泥棒をする。しかし決して不道徳と言ってはならん。もし不道徳だなどと言えば、僕の顔へ泥を塗ったものである。僕を侮辱したものであると主張するようなものだ。女は中々利口だ。考えに筋道が通っている。苟も人間に生まれた以上は踏んだり蹴ったりどやされたりしても平気でいる覚悟が必要であるのみならず唾を吐きかけられ糞を垂れかけられた上に大きな声で笑われるのを快く思わなければならない。それでなくては斯様に利口な女と名のつくものと交際は出来ない』ってね。」
「私をその利口な女って言いたいわけ?」
「まあね、漱石は更にこう言ってるんだ。『陰で笑うのは失敬だとくらいは思うかもしれないが、それは年がいかない稚気というもので人が失礼をした時に怒るのを気が小さいと先方では名付けるそうだから、そう言われるのが嫌なら大人しくするが宜しい』ってね。」
「アッハッハ!正にその通りね。流石は漱石さんって感じ!大橋君も精々大人しくすることね!」
「ああ、そうかい。僕は大人しく出来ない質だから、それは困るね。」
「ふふふ、それはお気の毒さま。あっ、いけない。また笑っちゃった!」
初デートと言っても小学生同士だからお金はこの日の為に貯めた小遣いだけで済まさなければならない。けれども、お金がなくたって手を繋いで歩くだけでも楽しいものだ。
「いつも歩いてる路なのに何だかとても楽しいわ。大橋君もそう思わない?」
「うん、思う思う!何て言うか、天国の楽園を歩いてるようだね!」
「アハハ!天国って私たち、まだ子供じゃない。天国に行くには早すぎるわ。」
「ハハハ!そうだね、確かに言えてる。」と僕が言った、丁度その時、つむじ風が僕らを襲った。
「キャー!」
朋美は叫ぶと同時にフレアミニスカートの前裾を両手で押さえた。そこへ僕が熱視線を注ぐと、なんとフレアミニスカートの右側の裾、つまり僕の側が捲れ上がっていたのだ。
青島は態と僕にピンクのパンツを見せる為に左側だけを押さえたのだろうか?見えたのは一瞬だったが、僕は興奮しながら衷心を窺うべく朋美の顔を見ると、含みのある笑みを浮かべていた。それは少女でありながら妖しい気色を表していた。
「私、早く女子高生になりたいなあ・・・」
そう呟いた朋美の顔が更に色づいた。
僕はドキッとして言葉と言い、表情と言い、もっと大胆になりたい気持ちの表れなのだろうかと思い、生唾をごくりと呑み込んだ。
その後、僕らはデパートへ行くと、僕が朋美をおもちゃ売り場に誘った。
「うわあ!すげー!これ画面が滅茶苦茶リアルに動く!これ、欲しいなあ・・・」
僕が興味津々になって、おもちゃ売り場の見本品に食い入るように見入っていると、朋美は不満げに言った。
「ねえ、私たちデートしてるのよ。何、おもちゃに夢中になってるの?」
「ああ、そうだったそうだった。」
「ねえ、もっと面白い所に行きましょうよ!」
「えっ、もう遊園地に行きたくなったの?」
「違うの、ね、行きましょ!」
朋美がまた妖しい笑みを浮かべながら手を引っ張っるので僕は何やら蠱惑されながら誘われるが儘、彼女の行きたい所へ彼女と手を繋ぎながら向かうと、なんと、そこは下着を身に付けたマネキンが所々に展示してある、お色気がむんむん漂う女性の下着売り場だった。
「ねえ、大橋君、私にどんなパンツを履いて欲しいの?」
「い、いや、き、君さあ、どんどん大胆になって来るねえ・・・」
僕が恐らくは顔を赤らめながら言うと、朋美は居直って言った。
「嫌だわ、そんな言い方、私たちカップルよ、当たり前のことを聞いてるんじゃない!」
「えっ、へへへ、そうか、へへへ、そうだよね、へへへ・・・」と僕が照れながら都合よく解釈しようとすると、「何、照れてるのよ、ねえ、照れてないで早く選んでよ!」 と朋美は駄々をこねるように促した。
「選んでって僕、とてもじゃないけど女の子のパンツなんか買えないよ。」
「分かってるわよ、そんな事、買って欲しい訳じゃなくて只、選んで欲しいだけなの。」
「ああ、そうなのか・・・」
僕は女性の下着売り場に来たのは初めての事だったから、それだけでも恥ずかしくなるのに女性のパンツを選べと言うのは・・・いやはや、而も小学六年生にもならない僕に・・・そんな思いでまごついて困っていると、朋美は嬉々としてマネキンを指差して言った。
「ねえ、あのマネキンさんの履いてるパンツはど~お?」
見ると、ピンクのリボンが付いた白いレースのパンツとそれとセットになったブラジャーを纏っている。
こ、これはパンツと言うよりパンティだと僕は思い、マネキンを穴が開く程、見ながら朋美のエッチな本性をまざまざと見たような気がした。
「ねえ、見てばかりいないで何か言ってよ!」
「えっ、ああ、あのさあ、君ってあんな透け透けなの履きたいのかよ?」
「駄目?」
「いや、駄目でもないけど、君にはちょっと早すぎるよ。」
「私を子供だと思って馬鹿にしてるのね!」
「いや、馬鹿になんかするもんか、君には清楚にしてもらいたいんだよ。」
「透け透けは清楚じゃないの?」
「もう、また、そうやってしらばくれて僕を困らせるんだから・・・」
「ふふふ」
結局、僕はピンクのパンツを選んで、やっぱりねと諒とした朋美と、その後、デパートの食堂で駄弁りながら昼食を取った。お品は焼き豚入味噌ラーメン。麺や汁を啜る青島も余り音を立てなくて女の子らしくて可愛いなあ、仕草や姿形も可愛いなあと僕は思い、改めて彼女に惚れ惚れし、青島とカップルになれて良かったと心底、満足した。
それからデパート屋上へ行ってゲームコーナーでUFOキャッチャーをしたり遊園地でゴーカートに乗ったりして初デートは大いに盛り上がった。
何故なら無我夢中で遊戯に興じたり態とはしゃいだりする一連の動作の中で随所に朋美のパンチラを僕は拝むことが出来、朋美はその度に僕の視線を感じて楽しむことが出来たからだ。
その途中でピンク色に悩殺された僕が到頭、鼻血を出した。
それを見て朋美は刺激が強すぎたかしらと、やっと悪びれた。
一体、どっちがデリカシーに欠けてんだか・・・
そんなこんなで初デートは一応成功したものの六年生に進級してからも中学に進学してからも僕は朋美と同じクラスになれなくて接する機会が少なく疎遠になりがちで思うように仲を深められなかった。
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