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黒人21センチの失態~M探偵番外編~
黒人21センチの犯行現場には常に真っ赤なカードが置いてある。そこには、『21cm』と書いてあり、彼が宝物を奪った証として犯行現場に残していくのだ。それ以外、決して痕跡を残さないのが彼のポリシーであった。
これまで奪った宝物は、すべて自分が借りている木造のボロアパートの202号室に置いてあり、それを知る者は誰もいない。日照り雨のグングニル、魂のブリンカー、虹のエクスカリバーなど、彼は、お金持ちの所有する伝説の武器を好んで盗んでいた。
世界各地にこのような伝説の武器があることから、彼は、世界各地を月に1回程度の割合で盗みに行っていた。
彼の本名は、山田和明。ごく普通の中年である。家は、大阪北部の箕面の山の上にあり、裕福な暮らしをしている。家族は妻の加奈と中学1年になる息子の則之がいた。それなりに仲が良く、仕事で海外に行っても早く家に帰りたくて、いつも弾丸で帰ってくる。山田は基本的に家が好きだった。仕事は形式上、雑貨やインテリアの輸入をしていることになっていて、実際、梅田に実店舗を一軒所有しているが、運営自体は社員に任せっきりであった。
黒人21センチとして暗躍する彼は、変装の名人であり、どんな伝説の武器も盗める自信があった。
ちなみに、名前の由来は黒人並みの長いペニスを有しているからである。
妻の加奈とは、今でも週1回のランデブーを加奈のベッドで行っている。2回ほど、知人の紹介でAV男優として作品に参加したが、加奈には内緒にしている。
その時の内容がハメ撮りモノでひどく興奮した為、一時期、加奈との行為をビデオに撮りたいと懇願したが、加奈には却下されている。その代わり、加奈の剃毛を許してもらった。
ある日、山田はロンドンの孤島にあるという『漆黒のフラガラック』を盗むため、夕食を終えるとすぐに関空に向かい、実質現地滞在5時間ほどで、『漆黒のフラガラック』を盗み出し、日本に帰ってきた。その夜、家族で夕食を食べている時だった。
みそ汁のお椀に、一本の陰毛がついていた。
「あ?」食卓に陰毛など愚の骨頂である。
山田はすぐに妻の加奈を疑って視線を向けた。
ちょうどコロッケを口にしようとしていた加奈は、箸を止めて、
「あたしじゃないって」
その言い方に、「あっ」っと声を出すところだった。
山田は、前回のランデブー時にも、加奈の陰毛を剃って楽しんだことを思い出したのだ。つまり、この陰毛は加奈の物ではないということだった。
すると、誰だ?
この家の中にいるのは息子の則之と彼だけだ。
「そうか。すまんな……」
加奈に謝ったあと、みそ汁椀の陰毛を指でつまんで、テーブルの下に落とした。
陰毛はこの部屋にある、ほんのわずかな気流、我々には感じることの出来ない僅かな空気の流れに乗り、一瞬で彼の視界から消えた。
陰毛とはまるで、怪盗のようなものだな。山田はふとそんな事を考えた。
「どこに消えた?」
ふと、そんな考えになったが、すぐに食事に戻ることにした。
そんなことは日常茶飯事だし、どうせこの陰毛は自分のものだろう。
則之は、まだ中学1年だ。生えていたとしても不思議ではないが、確率的に自分の方が多いに決まっている。
家族との食事中に考える事でもない。山田は、たっぷりソースをかけたコロッケを口に入れた。
夕食を終え、シャワーを浴びに洗面所に入った山田は、服を脱ごうとして、右手の甲に1本の陰毛を見つけた。
「こんなとこに?」
若干の笑いを堪え、特に陰毛を取ることもなくズボンを脱ぎ始めた。
ここは浴室前の洗面所だ。洗面所に陰毛があったところで、何の違和感もない。100の洗面所があれば、101の陰毛がある。確率的には100%を超えていると言ってもいい。それぐらい、わざわざ口にして言うほどの問題ではないと思う。
しかし、先ほどの食事中の陰毛が自分の手の甲についていたとなると、不思議としか思えない。
なにせ、あの陰毛はこっそり自分の指先から床に向かって落とした筈なのだ。つまり、この陰毛はまた別の陰毛なのかもしれない。
こうも陰毛が家庭内をふわふわと漂っているような印象を与えて来るとは……。
「寄る年波には勝てんか……」
彼は老化現象の一つだと考える事にした。
シャワーを終え、リビングで少しばかりテレビを見ようと腰を下ろすと、ちょうど『漆黒のフラガラック』盗難事件の続報が流れていた。現場には黒人21センチの犯行カードだけが残されていたとテレビは伝えている。
「その他の手掛かりは一切ないようです。果たして黒人21センチはいったい、いま、どこにいるのでしょうか?」
と、リポーターが話している。
心の中でほくそえみながらそれを眺めていると、画面の端にインターポールの捜査官オズワルドがニヤニヤ笑っている顔が映り込んだ。
「おや?」
彼はいつもわたしの犯罪に苦虫を噛みつぶしたような顔をしているのだ。それが、今回はニヤニヤしている。何かあったのではないか? 彼を浮足立たせる何かが……。
山田は、一抹の不安を覚えた。
その夜。不安は的中した。
深夜、寝ている山田のもとに、真っ黒いヤモリが窓際に現れた。ヤモリは窓の隙間を見つけるとスルスルと山田の部屋に入り、カーペットに落ちる。
山田は、気配を感じて目を開けた。
「竹内か?」
カーペットに落ちたヤモリは、ぶるぶる震えだすと、だんだんとその姿を大きくして行き人間の姿になった。
「ご無沙汰しております」
人間の姿になったヤモリは、ベッドの上の山田に対して最高の敬意を払うように答えた。
「どうした? こんな夜更けに?」
山田は、竹内というこのヤモリ人間にいくばくかの不安を感じていた。彼には、警視庁に張り付き情報を入手し報告する仕事を与えていたが、彼からの報告は常にメールであり、直接家に来るような事はするなと言ってある。それが、今夜は直接来たのだ。きっとよからぬ報告であろう。一刻を争うような……。
「用件だけを言ってくれ」
出来るだけ冷静に言う山田。
「はい……。実はロンドンの現場からある遺留物が見つかり、先ほど警視庁に輸送されてきました」
「……なに? 遺留物?」
「インターポールのオズワルドが指揮を……超極秘案件です」
「おれが現場に痕跡を残すことなんて絶対ない!」
「しかし残念ながら……」
「なんなんだその遺留物とはっ!」
山田は思わず語気を荒げてしまう。黒人21センチは、どんな現場でも何も残さない。犯行を記すカード以外。一切、何もだ。
「1本の陰毛です」
頭の中が真っ白になるというのは、まさしくこういう事なんだろう。
「陰……!?」それ以上、言葉に出すのも嫌だった。
おれは、ロンドンまでの長い距離、陰毛と旅をしたというのか?
そんな事がありえるのか?
バカな。
そんなバカなだ。
いや、どちらかと言えば、現場で陰毛を落としたという可能性の方が高い。やはり寄る年波には勝てないのだ。
「今から科捜研で鑑定だそうです」
「ロンドンの孤島から東京の警視庁に俺の陰毛が輸送されたのか?」
「そうです」
完全に竹内の顔は笑いを堪えている。
山田は、竹内が吹き出すまでわざと何も言わずに待っていた。
……。
……。
ぷぷっ……。
つい笑ってしまう竹内。
「完全にバカにしてるだろ?」
「いえ、そんなことは」竹内は、まだ笑いを堪えている様子で顔を下に向けた。
「今から行く。案内しろ」
「どこへ?」
「決まってるだろ。警視庁の科捜研だ。DNAデータと陰毛を奪う」
必死で笑いを堪える竹内。
「笑うな……」
警視庁6階の科学捜査研究所では、夜通しの鑑定作業が行われていた。何しろ、国際的な手配犯の陰毛鑑定に警視庁が選ばれたのだ。絶対にミスは許されない。
すでにロンドンでは簡易鑑定が行われ、この陰毛がその屋敷の住人の物では無い事は判明していた。
つまり、黒人21センチの陰毛である確率が高いという事は明白であった。
陰毛と共に来日した鬼の捜査官オズワルドは、DNAデータから前科者リストとの照合作業を進めるよう指示していた。
オズワルドはインターポール(国際刑事警察機構)で、主に国際的な指名手配犯を追う仕事を担っており、その捜査統括を任されている。
もちろん、黒人21センチに関しても彼の捜査対象であり、「あいつを捕まえるまで、ホリディはないと思え」が、家族に対しての口癖だと自分で言っている。
が、噂では、かなりの恐妻家のようで、家に帰るのが怖いのでは?と囁かれているのもまた事実だった。
その科捜研の窓の外には、ヤモリが一匹張り付いていた。
オズワルドは、夜食のカップラーメンを食べながら、科捜研のメンバーと結果が出るのを待ちながら談笑している。
車の中で待つ山田のもとに竹内が入ってくる。
「15人ほど人間がいますぜ」
「わかった。変装するから、写メを見せてくれ」
「ああ」
竹内がスマホを操作し画像を出そうとするが、エロ画像ばっかりで科捜研のメンバーの写真にたどり着かない。
「早くしろ。誰でもいいんだ」
竹内のスマホに安田という科捜研のメンバーのIDカードが映る。かなり太っている男だ。
「安田という男です。今日は休みでいません」
「よし」
「黒人21センチは誰でも変装できるってほんとなのか?」
車を降りようとする山田。
「ボス。気をつけな」
「わたしを誰だと思ってる? 黒人21センチだ」
颯爽と警視庁のビルに入っていく山田。山田の顔がぐにゅと潰れ、次の瞬間には安田の顔になっている。
「世話の焼ける陰毛だ」
次の瞬間にはぶくっと体形と変わり、服装が白衣に変化している。
6階のエレベーターのドアが開くと、そこには安田という男にしか見えない山田がいた。
その胸元には、偽装されたIDカード。
全身、安田に変装した山田は科捜研のドアを開けた。
「みなさん、コーヒーでも飲んで一息入れません?」
「あれ、安田さん、今日休みじゃ?」
「いやぁね。天下の国際犯、黒人21センチの陰毛鑑定なんてなかなか見れないから、つい。サービス出勤」
「熱心だなぁ」などと皆が口々に言う。
「そうだな。では、休憩するか」オズワルドは全員に休憩を促し、自分も少し休もうと考えた。
「わたしがコーヒー入れてきます」そう言って、安田に扮した山田は給湯室に向かった。
給湯室に入った山田は全員分のコーヒーを入れながら、各カップに睡眠薬を入れていく。
「さぁどうぞ」
「疲れた~」口々にそう聞こえ、みんなが一斉にコーヒーに口をつける。
それを確認した山田は、さっと給湯室に隠れた。
「あれ、なんか眠い……」一人、また一人と倒れていく。
全員が意識を失うまで時間はかからない。そう踏んでいた。
その時、
「き、君! 何をした!?」
オズワルドだ!彼は飲んでいなかった。
山田は給湯室で動けない。
オズワルドは、コーヒーカップを床に投げ捨てる。
「お前、誰だ! 給湯室に隠れただろ!」
ゆっくり給湯室に歩き出すオズワルド。
「い、いえ……わたしは何も知りません……」山田は何とか取り繕えないかと言葉を発した。
「きさま……嘘つくな……」
オズワルドは腰から拳銃を取り出し身構えながら給湯室に歩く。
給湯室の山田は、スマホを出し画像の検索をし始める。
これだ。
オズワルドが給湯室に入った瞬間、外国人女性が怒鳴りつける。
「あなた、こんなとこでナニしてるの! ニッポンに女いるのか!」
オズワルドがひるむ。無理はない。この世で一番恐れている妻のジェシーだ。
「ち、違う!」
間違っているのはオズワルドだが、正気を失っている様子だ。
「インターポールは、国際的に浮気させる組織なの?! いい加減にして!」
「いや……ジェシー! これは仕事だ!」
「仕事仕事仕事仕事! マイワーク!マイワーク!マイワーク! もうぉ~いやぁぁ!」
ジェシーに変装した山田の強烈な一発が、オズワルドの顎にヒットする。
床に吹っ飛ぶオズワルド。
山田は、オズワルドの拳銃を奪い取り、
「ほんとにもうぉ。あなたって人は……勉強しといてよかったわよ」
山田は、ジェシーの変装のまま、部屋の中を見渡す。解析作動中のPCを見つけるとそこに近づく。
「黒人21センチは、現場に遺留物など残さないんだよ……」
解析キャンセルのボタンを押し、解析対象のDNAデータを削除する。
念のため、オズワルドの拳銃で科捜研のPC全部を打ち抜いていく山田。さらに、PCにささっているUSBや中のCD-ROM、ハードディスクなどすべてを破壊していく。
「ふぅ……さて、あとは陰毛だ」
警視庁のパソコン内にあるデータは削除できたものの、肝心の陰毛を探し出さなくては意味がない。
ふと、保管庫のプレートが目に入った。
山田が入ると、そこには捜査に関係する遺留物が事件ごとに箱に入り保管されている。
ドアから入って真っすぐ正面に保管庫用のPCを見つけ、素早く検索をかける山田。
でた。
ロンドンの事件は、No.5946852だ。
だがそこで声がした。
「おい、みんなどうした?」
科捜研に遊びに来た夜勤中の冴渡刑事だった。冴渡と言えば、M探偵とコンビを組んで事件を解決すると、警視庁でも有名であった。しかし、実際はほとんど何もせず、M探偵を羞恥することに執念を燃やすだけのドS刑事であった。時系列で言うと、この話はM探偵と冴渡が黒人21センチに出会う(スーパーサイヤジン子の回)よりまだずっと前の話である。
冴渡はこの科捜研の有様を見て、ツイてる、と感じた。なにせ、事件の遺留品に陰毛があるという情報を聞き、ぜひその陰毛を見ようと企んできたのだから。根っからのエロ刑事である。
冴渡はだれも起こすことなく、一目散に保管庫に向かった。
保管庫の中の山田は、No.5946852を見つけたものの、冴渡の気配が近づき身を隠した。
保管庫に冴渡が入ってくる。
すぐにPCの前に立ち、「おや?」と画面を見る。
すでに、お目当ての保管Noが出ている。
「まさか!」
大声を出して、保管庫の中を慌てた様子で探し、No.5946852を探しだす。
中を探り、ホッとした表情の冴渡。
「ふぅ。あるじゃないか。陰毛ちゃんよ」
山田は、その様子を見て、唖然とする。
なぜ、捜査一課の刑事が陰毛を見に来るのだ。
冴渡はそのまま陰毛を持って部屋を出ていく。
どこに行くのだ。明らかに盗難だ。
すぐに冴渡を追って出る山田。
冴渡は小さなビニール袋に入ったその陰毛を見つめながら歩いている。
「ロンドンから陰毛が来たって聞いたが、これは真っ黒だなぁ……外人じゃないのか?」
「わたしの陰毛です」
オズワルドの妻ジェシーに扮した山田は、思い切って冴渡に声をかけた。
「びっくりしたっ! どこに隠れていたんですか!?」
「あ、あの……危険を感じて保管庫に……」
「危険? 何かあったのですか?」
全員で地べたに寝る訳ないだろう。部屋中のパソコンが拳銃で撃ち抜かれている。この状況で何かあったのか聞くコイツは本当に刑事なのか?
一瞬、しゃべるのをやめようか迷う山田だったが、陰毛を取り返すという目的がある。
「実は変な男が入ってきて、みんなを眠らせていったんです。わたしは、たまたま保管庫にいたので、そのまま隠れていました」
「君は……外人だよね?」
「わたしは、オズワルドの妻です」
「オズワルド捜査官の?」
「はい……」
「じゃ、この陰毛は君のでは無い。君は嘘をついている」
「いえ、わたしの陰毛なんです」それは本当だ。
冴渡が一瞬黙り込んだ。やれやれという顔をしたかと思うと、突然、
「真っ黒だろこの陰毛! 見てみろよ!」と、怒鳴り出す。
「バカか!? わたしをなめるのもいい加減にするんだ。わたしはこれでも警視庁捜査一課の刑事だ!」
山田は、冴渡が何をそんなに怒っているのか全く分からない。
「そ、そんな……」こういう時は泣いてみるもんだ。山田は、女性の涙で切り抜けようと考えたが、冴渡には通用しない。
「あのな、外人の陰毛はもっと黄色がかってるよ。覚えておきな」
正真正銘のバカ刑事なのかも知れない。
「あ、あの……」なんとしても引き止めないといけない。このバカを。
「しつこいな。言っとくが、これはわたしの陰毛だ」
お前のではない。間違いなく。切り口を変えよう。
「それはロンドンから空輸されてきたれっきとした証拠物です。勝手に持ち出すと犯罪になります!」
冴渡が、ビニール袋の口を開けて、匂いをチェックする。
「わずかに香水の匂いがする……これは……女子大生の陰毛か……」
俺だ。
「陰毛占いって知ってるか?」
「わかりません。返してください」
「おっと。俺に近づくな」
冴渡が山田を制して、後ずりながら、陰毛を袋から慎重に出す。
「この曲線を見ろ……ジャングルを流れるアマゾン川のようだと思わないか?」
陰毛が川だという謎の発言と、陰毛占いとは何か、が全くリンクせず、山田は思考を正すのに時間を要した。冴渡という刑事は、こういうやり方で犯人を追い詰めるのか? とすると、誰にもマネ出来ないと山田は感心してしまう。しかし、そんな事を考えている場合ではなかった。冴渡がどんな説得にも応じる気は無いと分かった以上。
山田が手を伸ばそうとすると、冴渡は身をひるがえし陰毛を高く上げた。
「これはわたしが預かる」
こどもか。
山田は、冴渡の腹を殴る。
「うっ!」
不意を突かれた冴渡は、陰毛を手放してしまう。
空中にふわふわと舞う陰毛を取ろうとする山田の手が、空気の流れを生み出し、また陰毛を移動させる。すると、今度は冴渡が手を伸ばす。するとまた空気の流れを作り、陰毛はふわふわと移動する。
まるで、タンポポの種のようにどこに行くか分からない陰毛。
「俺のだ!」
「俺のだ!」
儚げに漂う空中の陰毛を奪い合う男たち。
とうとう、床に落ちそうになった陰毛を二人の男がスライディングジャンプして取りにかかる。
大の大人がジャンプしたら、そりゃ陰毛は吹き飛ぶ。
二人は、科捜研のデスクにぶつかり、床に転がる。
山田はすぐに陰毛を探すが、どこにいったか分からない。
ーーどこだ?
見失ったか!
「あった!」
冴渡が先に声を上げた。眠っている科捜研の女性の白衣についている。
「くそっ!」
山田はまだ立てない。そのうちに冴渡が走り出した。出遅れた。
山田は、隠し持っていた銃を冴渡の背中に向ける。仕方がない。
その時、山田の視界に床に落ちているもう一つの陰毛を見つける。
白衣につく陰毛と視界の先にある陰毛をよく見る山田。
「ジャングルのアマゾン川……」
ちぢれ方が違う。正解は床に落ちている方だ。
冴渡は、山田がもう来ないと判断してゆっくりと女性の陰毛に近づいている。
山田は、素早く慎重に陰毛に手を伸ばすと陰毛の方からこちらに吸い寄せられるように指先に収まった。陰毛とは不思議な毛である。
「ふふふ……。これはこれは。科捜研のお色気担当ではないか……」
冴渡は、その科捜研の女性を知っているようで、どうやらそちらの方に関心がいっているようだった。
山田は、ビニール袋に陰毛をしまうと、こっそり廊下に向かった。
家に着いた山田はもうジェシーの変装から戻っていた。竹内には再び警視庁に張り付き、監視するように頼んでおいた。
小さなナイロン袋から慎重に陰毛を取りだし、トイレに落とす山田。
「ふぅ……」
山田は安堵のため息をつき、トイレの水を流した。
「あなた~。食事よ」
加奈の声が聞こえてきたので、山田はトイレのドアを開けた。
ちょうど向かいにあった則之の部屋から、則之も出て来るところだった。
山田は、その則之の下半身を見て驚愕する。
則之は勃起した陰茎を露出したまま、左手で陰茎を握った状態だった。ふさふさとした真っ黒い陰毛の森に聳え立つ、居丈高で剛情な一本の太い幹を目の当たりにした山田。
言葉を失い、慌ててトイレに戻りドアを閉める山田。
「どうしたの? ご飯だよパパ」
あれはなんだ?
でかいぞ。俺以上だ。ゆうに30センチはあった。俺と加奈の遺伝子はそれほどまでに剛情に上へ上へと目指す遺伝子だったのか。山田は、自分の遺伝子を呪った。
そしてなぜ普通に「ご飯だよ」と言える?
見られたと思っていないのか?
「あ、あぁ……」
歩いていく則之の足音が遠のいていく。
そっと、ドアを開けて則之の背中を確認する山田。
歩いていく則之の足元から、1本の陰毛がはらりと落ちた……。
ふわふわと舞いながら落ちていく陰毛のように、山田の意識も遠のいていく。
これからも息子の陰毛に悩まされる事になると確信した。
完
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