1人が本棚に入れています
本棚に追加
エピソードⅢ 二日酔いの通勤路
翌朝、少々の二日酔いとなった。ヒロシは自宅を出て、目をしょぼしょぼしながら駅に向かう通勤路を進む。すでに明るく朝の光と清々しい空気がかえって二日酔いにはつらい。
商店街のはずれに来たところだった。ヒロシとは反対に駅方向から歩いてくる男が見えた。長髪に大きめのヘッドフォン、毛糸の帽子を深く被ったヤンキー風の若者だ。かったるそうに歩いて来た。ヤンキー風だが体躯がいい若者だった。
若者は、近づいたところでヒロシをジロツと睨んだ。目が合う。いやな感じがした。すると、若者がヘッドフォンと帽子をおもむろに取り始めてさらにヒロシに寄ってきた・・。
「(何、イチャモンかよ。)」
危険を感じたヒロシはコブシをコートのポットの中で握りしめた。ヒロシは田舎育ちで小さい頃は喧嘩ばかりで育っていた。
「(おじさん結構強いよ・・)」
と言いかせつつ、実際、大人になってからは取っ組み合いの喧嘩なんてしたことがないのだが・・。
さらにヤンキー若者が近寄ってくる。
ヒロシは、身構えようとした。すると・・。
「おはようございます。」
若者が丁寧に礼をして言った。えっ、よーく見ると、それはリョウだった。
「こんな時間に仕事帰りかい?」
「飲み明かしてしまって・・。」
とても眠たそうな雰囲気だ。
「昨日、シズカをすっぽかしてメチャ怒っているだろうなぁ・・。どうしよう・・。」
ヒロシは、昨日のバーでのシズカのことは言わないことにした。
「怒られてもなんでも、早く連絡するんだな。女は男が謝るのを待っているもんだよ。」
「うーん、そうだよね・・。」
そのままヒロシとリョウは反対方向に別れた。リョウは最初のヤンキーイメージとは違って好感のもてる若者にみえた。
秋は感傷的、昨晩から朝にかけて小さな出来事で心が騒いだ。ヒロシは呟いた。
「人間観察を趣味にしてみようか。」
いつの間にか二日酔いはどこへやら、秋晴れの空が広がっていた。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!