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冬空から、295色降る
急がなくちゃ。
ブーツの踵を鳴らして、アスファルトを駆ける。息が白いのは、全力で走っているせい。打ち合わせが長引いてしまった。全く、嶋田の奴、使えないんだから。
向かい風が冷たい。頬も指先も凍えてきた。手袋はポケットの中だ。持っているのに、はめる余裕もない。
福元様との約束は15時だ。14:36のバスに乗らなくちゃ。16時半には雑誌の打ち合わせがあって……それから会議と、今夜は――あ、信号が点滅してる! これ渡らなきゃ、バス間に合わない!
踏み出した車道の白線が、ツルリと滑る。
――キキーーッ!! ドンッ!
……あっという間もなかった。
脇に抱えていた紙袋が真上に飛び、福元様の事務所に持って行く色見本の壁紙が、宙に舞った。灰色の冬空から、295種の色達がスローモーションで降ってくる。凍った車道に横たわる私目がけて、紙吹雪みたいに――。
ざわめきの彼方から、サイレンが近付いてきた。
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