二〇一九年一月二十九日

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 増田隆は、目の前に座る吉田に、目も合わせようとしなかった。  坂下は、手が止まっていた。増田はただ俯き、何も話そうとしなかったからだ。   「あんたは元々、窃盗を犯して指輪を手に入れていた。それで、間違いないな?」  吉田は苛立ちながら言った。しかし、増田は何も答えない。  吉田は椎野に助言を添えた。すると、彼は口を開き始めた。 「ああ、そうだよ」  そうぶっきらぼうに。  最初は話を渋ったが、吉田が正直に話したほうが罪が軽くなる。そう話を促すと、簡単に口を開き始めた。単純な男だった。 「とにかく金が欲しかったんだよ。そん時に田口のおっさんが現場で他の奴に囲まれてさ。聞くと、指輪がどうとかこうとか言ってやがるからさ。それで、なんかチャンスだと思ったんだよ。それに、あいつの事は気にくわなかったからな」 「だからといって、盗みはいかんだろ」  吉田がそう言った時、増田は、ボソボソと小さな声で言った。 「何? はっきり喋れよ」  吉田の声に、増田は鋭い眼光を向けてくる。しかし、そんなものでは、こちらは動じない。 「あいつが悪いんだ。あんな嘘をつきやがるから」  坂下は思わず、ノートから顔を上げて、吉田を見やった。  吉田は、机の上に頭を乗り出していた。 「どういうことだ?」  そう吉田が問いかけると、増田は顔を上げた。 「俺は、ゴルフ場で取引を持ちかけたんだ。今日俺が、あんたよりもバーディを一つでも多く取ったら、そのスネークの指輪を譲ってくれって。それで俺は勝ったんだ。それなのに、あいつは知らん顔だ。俺は、何も返事をしてないっていいやがるか始末だぜ。腹が立ったから、だから俺は、自分から取りに行ったってわけさ」 「だけど、また俺は騙されたよ。あんなもん持ってたって、何も変わりやしない。金が増えるなんて嘘をつくあいつが悪いよ。仕事だって、全然上手くいかねえしさ」  ただの馬鹿だ。坂下には、そう思えて仕方がなかった。 「それで、そのあと指輪をどうしたんだ?」    吉田は、さらに増田を問いただした。 「パチンコ屋で見かける奴に売ったよ。五万で売れたのは、まあ、こっちとしてはラッキーだったけどな」  それが椎野という事か。話を詰めれば、どちらが嘘を付いているか、明らかになる。とことん絞ってやりたい気分に駆られた。   「それで、どうして田口があの家に盗みに行くと思ったんだ?」  吉田は聞いた。 「勘だよ。勘。あの親父と一緒に仕事してたら、なんとなく、そういうの事がわかるだろ」 「それに」と増田は付け加えた。 「苛々したから、憂さ晴らしをしたかったんだ。そん時に思いついたのが、あの息子を騙す事だったよ。いけないか? 俺はスッキリしたぜ。だから、知り合いを通じて、田口の息子に電話させたんだ。だけど、まさか本当に、あそこまでするとは思わなかったけどな。まあ、俺を騙したあいつの息子が捕まった話を聞いて、笑いが止まらなかったよ」  吉田は無言で立ち上がり、増田の頬を張った。そして、首を壁に押さえ付けた。  坂下は、必死に吉田を止めた。  その後、取調室にはただ、二人の息だけが流れていた。 「少しは反省をしてもらおうか」  吉田の声に、増田はまた、顔を下に向けた。              
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