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増田隆は、目の前に座る吉田に、目も合わせようとしなかった。
坂下は、手が止まっていた。増田はただ俯き、何も話そうとしなかったからだ。
「あんたは元々、窃盗を犯して指輪を手に入れていた。それで、間違いないな?」
吉田は苛立ちながら言った。しかし、増田は何も答えない。
吉田は椎野に助言を添えた。すると、彼は口を開き始めた。
「ああ、そうだよ」
そうぶっきらぼうに。
最初は話を渋ったが、吉田が正直に話したほうが罪が軽くなる。そう話を促すと、簡単に口を開き始めた。単純な男だった。
「とにかく金が欲しかったんだよ。そん時に田口のおっさんが現場で他の奴に囲まれてさ。聞くと、指輪がどうとかこうとか言ってやがるからさ。それで、なんかチャンスだと思ったんだよ。それに、あいつの事は気にくわなかったからな」
「だからといって、盗みはいかんだろ」
吉田がそう言った時、増田は、ボソボソと小さな声で言った。
「何? はっきり喋れよ」
吉田の声に、増田は鋭い眼光を向けてくる。しかし、そんなものでは、こちらは動じない。
「あいつが悪いんだ。あんな嘘をつきやがるから」
坂下は思わず、ノートから顔を上げて、吉田を見やった。
吉田は、机の上に頭を乗り出していた。
「どういうことだ?」
そう吉田が問いかけると、増田は顔を上げた。
「俺は、ゴルフ場で取引を持ちかけたんだ。今日俺が、あんたよりもバーディを一つでも多く取ったら、そのスネークの指輪を譲ってくれって。それで俺は勝ったんだ。それなのに、あいつは知らん顔だ。俺は、何も返事をしてないっていいやがるか始末だぜ。腹が立ったから、だから俺は、自分から取りに行ったってわけさ」
「だけど、また俺は騙されたよ。あんなもん持ってたって、何も変わりやしない。金が増えるなんて嘘をつくあいつが悪いよ。仕事だって、全然上手くいかねえしさ」
ただの馬鹿だ。坂下には、そう思えて仕方がなかった。
「それで、そのあと指輪をどうしたんだ?」
吉田は、さらに増田を問いただした。
「パチンコ屋で見かける奴に売ったよ。五万で売れたのは、まあ、こっちとしてはラッキーだったけどな」
それが椎野という事か。話を詰めれば、どちらが嘘を付いているか、明らかになる。とことん絞ってやりたい気分に駆られた。
「それで、どうして田口があの家に盗みに行くと思ったんだ?」
吉田は聞いた。
「勘だよ。勘。あの親父と一緒に仕事してたら、なんとなく、そういうの事がわかるだろ」
「それに」と増田は付け加えた。
「苛々したから、憂さ晴らしをしたかったんだ。そん時に思いついたのが、あの息子を騙す事だったよ。いけないか? 俺はスッキリしたぜ。だから、知り合いを通じて、田口の息子に電話させたんだ。だけど、まさか本当に、あそこまでするとは思わなかったけどな。まあ、俺を騙したあいつの息子が捕まった話を聞いて、笑いが止まらなかったよ」
吉田は無言で立ち上がり、増田の頬を張った。そして、首を壁に押さえ付けた。
坂下は、必死に吉田を止めた。
その後、取調室にはただ、二人の息だけが流れていた。
「少しは反省をしてもらおうか」
吉田の声に、増田はまた、顔を下に向けた。
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