プロローグ

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プロローグ

 東京駅丸ノ内側北口を出たところに露天営業をしている靴磨き屋がある。ヒロシはいつの頃からかこの靴磨き屋に寄るようになった。技術の高い職人さんらしく靴をピッカピカに磨いてくれる。それだけではない。磨いているほんの5分10分の間にする会話がとても味わい深く面白いのだ。  失礼なことだが、ヒロシは露店の靴磨き屋という職業に浮浪者のイメージを持っていた。戦争を知らい子供達と言われた世代だが、戦後の東京を紹介するテレビ番組や雑誌で浮浪児が靴磨きをしている写真を良くみた。それもあって露天で靴磨きをしている職人達をみると、あの浮浪児達が大人になってそのまま生活費を得ているのだろうと勝手に思っていたのだった。  12月初の寒い昼時であった。外出先から戻ってきたヒロシは北口の改札を出て北口前に立つビルのオフィスに戻ろうとしていた。天井の高い円筒ドームの駅舎から表に出たとたんに足になにか引っかかるものを感じた。足元をみると左の靴紐が解けている。しかたなく、しゃがんで靴紐を結び直した。立ち上がり改めて靴を見てつぶやいた。 「埃っぽい靴だなぁ。暫く磨いてねぇし。」 横断歩道へ歩き始めようとした時、道路横のガードレールの張り紙が目に入った。  『みがき 500円』 「靴磨きかぁ、自分でしかやったことないけど、500円だったら試してみようか。」 ヒロシは張り紙の方に歩いて行った。三人の職人が露天営業をしていた。三人とも靴墨に汚れたボロボロの身なりで客を待っている。一人は細身で長髪を後ろで束ねている男、その横に小太りの50前後と思われる男、もう一人はもう70近いと思われる高齢だった。靴墨の染みがたくさんついたボロボロの身なりで座っている。
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