手袋とマフラー

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手袋とマフラー

「センパイ、お誕生日おめでとう。」  二人で座った公園のベンチ。紅葉した街路樹の葉が無くなりつつある頃、初めての彼女からの初めてのプレゼントは、僕が必要としているものではなかった。 「手袋と……マフラー?」  ひどく暑がりで薄着な僕に防寒具のプレゼント。彼女はそれを気遣ってくれたのだろうが、全くの見当違いだ。 「そう。寒いかなーって思って。……嫌だった?」  手袋はまだいい。繋ぐ手が冷たくては、たまったもんじゃないだろうから。だが、マフラーはいただけない。ただでさえ首周りが痒くなりやすいし、そもそもそんなガラじゃない。とはいえ彼女がせっかく選んでくれたんだ、と僕は感謝の言葉を伝える。 「ありがとう」  ところが、形だけでも微笑んで言えば良いのに、どうやら僕は自分の思っていた以上に感情に素直らしい。言葉をかけられた後輩はみるみるうちに心配そうな顔に変わっていく。 「ここじゃ寒いだろうから、違うところ行こう。」  僕はマフラーをカバンに仕舞い、貰ったばかりの手袋をつけて彼女の手を引いて公園を後にしようとした。  ところが彼女はその手を嫌がり立ち止まった。俯いたままの彼女。どうしていいかわからない僕は、しばらくしてこう伝えた。 「帰ろっか。」
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