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そして再び星空を見上げて
「そうよ、翔。彼は貴方の息子、翔二よ!」
私の声に翔が振り返る。私は少し不安だった。私は既に六五歳のお婆さん。翔は私のことが分かるだろうか・・?
しかし・・。
「・・茜・・」
彼が私にそう言ってくれて私は本当に嬉しかった。私は頷きながら翔二にお願いした。
「翔二、代わってくれる?」
翔二が翔の横から立ち上がった。
「お父さん、僕は貴方をずっと誇りにしていた。貴方の勇気と祖父や母への想い。それがこの奇跡を起こしたんだ。詳細は母が説明してくれる。でも逢えて本当に嬉しかった。ありがとう、お父さん」
翔二はそう言いながら翔に右手を伸ばした。翔はその手を握りしめている。翔の顔は嬉しさに溢れている様に見える。
私は翔の横に腰を降ろした。そして翔の顔を見つめた。
「四十年前、父が倒れ、会社は倒産の瀬戸際なのに、貴方が私から去ってしまって、私は本当に塞ぎ込んで自暴自棄になっていた」
「そんな時、スペースYから五百億円を超える資金が私の口座に振り込まれた。これで安曇工業は危機を脱し、父はアメリカで名医の治療を受けて回復出来たの」
「私はスペースYに問い合わせて、貴方が『ビヨンド』で『プロキシマb』に出発したことを知ったわ。それは生きて地球へ帰還することの無い片道の旅だと聞いて心が折れそうだった。何とか貴方と連絡したかったけど、『ビヨンド』の超長距離通信が故障していて貴方と話すことは出来なかったの・・」
「それを知った父は、彼が温めていたアィデアを実現させる為に全精力を注いだ。それは『縮退炉』と『超光速航法』を開発することよ。そして彼はそれを実現し、私に貴方ともう一度逢える機会をくれた」
「そして私はこの星をテラフォーミングして貴方の船がここに現れるのを長い間待っていた・・。『ビヨンド』が無事この太陽系に現れた時は本当に嬉しかった・・」
私は夜空を見上げた。あの時と同じ綺麗な星空が広がっている。
「その仔はテイトの八代目の子孫よ。顔、テイトにソックリでしょ? 彼も貴方を待っていた・・」
翔が膝に載っているテイトを見下している。テイトが嬉しそうに『ワン』と吠えた。
私は翔の肩に頭を傾けた。
翔が私の肩を抱きしめてくれる。私達は二人と一匹で『再び』夜空を見上げた。
私は込み上げて来る涙を止めることが出来なかった。
あの時と同じ満点の星空が私と翔の再開を祝福してくれている。
でもいつもと違うその星々の姿は、ここが地球から『遠く』離れた異星だと私達に教えてくれていた。
FIN
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