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父と翔
「ただいま!」
最近、私のテイトとの散歩は二時間くらい掛かっていた。それは砂浜で一時間強を翔と過ごしているからだった。そのことを母に説明した時には・・。
「あの数学オリンピック優勝の男の子を捕まえるなんて、茜もやるわね・・」
と笑いながら応援してくれた。
今日は、帰宅して玄関のドアを開けると珍しく父に会った。
父の浩二は五十二歳。安曇工業の社長でいつもは工場のある横浜から夜遅く帰宅することが多くて、平日に会うことは稀だった。
テイトを抱えた私を父が振り返る。
「茜、最近、テイトの散歩に時間が掛かっているそうじゃないか?」
「えっ? そうかな・・?」
私はまだ翔とのことを父に言うのは少し躊躇が有った。きっと、父はあまりいい顔しないと思うから・・。
先に靴を脱いで玄関を上がった父を母が迎える。
「浩二さん、お帰り。今日は早いわね」
そう言いながら母は父の上着と鞄を受け取ると、私に笑顔を向けた。
「茜もお帰り。翔さんと今日も会って来たの?」
私は左手の人差し指を唇に当てて『シーッ!』てジェスチャーしたけど、もう遅かった。父が首を傾げもう一度振り返る
「翔・・? ああ、数学オリンピックで優勝した、遠藤翔君か・・?」
父は微笑みながら私にそう言った。
「えっ? お父さん、なんで彼のこと知っているの?」
「うん、ああ、百合から、お前がその子に熱を上げていると聞いていたからな・・。まあ、細かくは夕食を食べながら教えてくれ」
父はそう言うと着替える為に二階へ上がって行った。
私は母を睨み付けた。
「何でお父さんに?」
「えっ? いいでしょ。浩二さんも翔さんのこと知っていて、流石、俺の娘だと言ってたわよ」
「えっ?」
「さあ、テイトの足を洗って、着替えて来て。直ぐに夕食よ・・」
母はそう言うと足早にキッチンに向かって行く。
私は左手で顔を押さえると大きく首を振っていた。
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