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翔は宣言通り、スペースYの採用試験に合格した。日本からスペースYへの合格者は勿論、翔だけだった。
彼の就職が決まった日の夜、私は翔からあの砂浜に呼び出された。私は、テイトと昨年生まれたテイトの娘、夏姫と一緒に砂浜に向かった。
突然の呼び出しに私は少しだけ不安だった。来年から日本とアメリカで離れ離れになる私と翔・・。翔は宇宙開発に専念する為、私と別れることを考えているのではないだろうか・・。そんな想像が頭をもたげ、砂浜で空を見て座っている彼に中々声を掛けることが出来なかった。
本当は就職おめでとうって言わなくちゃいけないのに・・。
「ワン!」
そんな私の心を知らないテイトが翔の背中に向かって吠えた。
驚いた様に翔が振り返ると、私達を見て笑顔を見せてくれた。そして立ち上がるとユックリ私の前に歩いて来た。
「茜・・」
翔が私を見つめている。
私は自分の不安を振り払う様に目一杯の笑顔を浮かべて彼に言った。
「翔。就職おめでとう。凄いよ。あのスペースYに採用されるなんて。でも暫くは日本とアメリカで遠距離恋愛だね・・」
私の足元で二匹のポメラニアンが嬉しそうに尻尾を振って私達を見上げている。
しかし、翔はそれには答えず、私を大きな目で見つめている。そしてポケットから小さな箱を取り出し、その蓋を開けると私の前に差し出した。
「えっ?」
私はとても混乱していた。そこには銀色の指輪が輝いている。私は何度も指輪と翔の顔を交互に見つめてしまった。それは余りにも私の想像と違っていたから・・。
翔が意を決した様に口を開いた。
「少し待たせてしまうけど、スペースYで成果を出したら君と結婚したい。プロポーズを受けてくれるかい?」
私の心臓が一気に鼓動を速めた。頬が火照ってくるのを感じる。そして私の心が嬉しいと叫んでいる。私の瞳に涙が溢れて来た。私は大きく頷く。
「うん、翔。嬉しい。ありがとう。待ってる・・ね」
私がそう言うと翔も大きく頷き、両腕を大きく広げ私をギュッと抱きしめた。私も彼の背中に腕を回す。そして私はその幸福を噛み締めていた。
私達の足元でテイトと夏姫がワンワンと鳴きながら走り回っている。彼等も喜んでくれているみたい。
そして頭上で輝く満点の星空が、私達の将来を祝福してくれていた。
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