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翔との出逢い
私の足元をオレンジ色の毛玉がトコトコと走っている。彼は尻尾を小刻みに振りながら私を先導してくれている。私達の真正面には海岸が広がっていて、その先の水平線に夕陽が沈もうとしていた。
真っ赤に染まった太陽の光を反射して海原がキラキラと輝いている。
「綺麗! ねぇ、テイト」
テイトが嬉しそうに私を振り返り、「ワン」と吠えた
仔犬のポメラニアン『テイト』を連れての夕方の散歩は私の日課だった。この仔は兄弟の居ない私の為に、父が高校入学のお祝いにプレゼントしてくれたのだ。テイトが家に来た時は生後六カ月で、鼻黒の不細工な顔をしてたけど、今ではとても可愛く精悍な成犬になった。そして私達は本当の姉弟の様に仲良く暮らしていた。
「テイト、彼、今日も居るね・・」
自宅の手前にある海岸を見ると砂浜に座っている男の子が見える。
私は彼が誰だか知っていた。彼は隣の共学の高校に通っていて、先月の数学オリンピックで全国優勝した天才だ。
私も理系で数学は得意だけど、私の女子校では誰も数学オリンピックの本戦に進めなかった。それなのに同じ市に住む男の子がそのオリンピックで優勝するなんて。その優勝を伝えるニュースを見ながら、頭が良いだけでなく美男子の彼に一目惚れしてしまった。
そして、先週テイトとの散歩で、砂浜に向かう彼とすれ違った時には、私の心が躍った。
それから毎日、砂浜を見ながら散歩をしているけれど、彼はいつもあの場所に座って空を見上げている。
私は決めていた。今日、彼が砂浜に居たら声を掛けようと。
私は足元のテイトを抱き上げると、テイトに彼をロックオンさせた。
「テイト、見える? 彼に飛び付いて、お顔を舐めてあげて!」
テイトはそう言う私を見ると、嬉しそうに「ワン!」と吠えた。
そして私がテイトを足元で放すと、テイトは砂浜への階段を駆け降り、一目散に彼に向かって行った。
私は、その後に続いて、砂浜に駆け降りる。
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