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「お代、払ってよね。約束破った分と泣かせた分」
「ああ、わかってるよ」
立花がカフェに入ると言ったのにと毒づきながらも、素直に支払いを済ませ俺たちはカフェを後にした。
大泣きした立花の表情はどこか晴れやかとしていた。
「そういえば、どうして私がAnnzuだって分かったの? 昔とはちがって髪も伸びたのに……」
確かに二年前に見たAnnzuはショートカットで、今の風貌とはだいぶ違っていた。
だけど、変わらないところがある。
それで、俺は立花杏子がAnnzuだということに気付いたのだ。
「マフラーだよ」
「マフラー?」
立花は身に着けているさくら色のマフラーに触れた。
「そのマフラー桜の花の刺繍がしてあるだろ。そのデザインってなかなか見ないから覚えてたんだよ」
「なるほどね。亡くなったおばあちゃんの手作りなの。おばあちゃんが見守ってくれている気がして、なかなか新しいのに変えられないんだ」
立花は愛おしそうにさくら色のマフラーを撫でた。
「それより、宮ノ下くんって軽音楽部なんだね。どうして軽音、入ったの?」
「なりゆきで……幽霊部員だから入ってるっていうのか分かんないけど……」
とてもじゃないけど、Annzuに憧れて軽音に入っただなんて言えない。
Annzuの歌を聴ける日は来るのだろうか。
その日が来なかったとしても、俺はこの偶然で奇跡のような出会いを大切にしたい。
星々が宝石のように輝く冬空の下、俺は家路を急いだ。
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