サクラ咲クトキ

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 暗くなってから家に帰ると、両親がダイニングで向かい合って話をしていた。テーブルには、花瓶に生けられた桜の枝。一日経った今も変わらず綺麗に咲き誇っている。  両親はどうやら和解したらしい。なんの話をしているのか、見たことがないくらい楽しそうに笑いあっている。  泣き腫らした顔を両親に見られたくなくて、早足で自分の部屋に戻った。あの調子なら、きっとしばらく喧嘩はないだろう。  手の中にそっと隠していた桜色の花弁を、机の上に置く。じわりと涙が溢れて、慌てて袖口で目を押さえる。  彼が残した“おまじない”。  最後に耳に届いた、彼の言葉。彼の願い。  私は袖でもう一度、強く目を擦る。  明日学校へ行ったら、まず始めにクラスメイトにおはようを言おうと思った。
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