民衆を導くマッチ売りの少女

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 もうじき、この国は変わる。  この国を戦争に追いやった王はもういない。私達が変えたのだ。  国民を省みることなく、勝てもしない戦争に税を注ぎ込んだ王。そして……彼の未来を奪った王。  もし彼がこの場にいたら何て言うのだろう。先頭に立ってこの革命を指揮した事を褒めてくれるだろうか。  彼の困ったような笑顔を思い出し、暖炉の前で1人の女性が微笑んだ。  彼女は、膝に置いたマフラーに手を当てる。このマフラーをくれた彼はもう、この世にはいないだろう。 ……………………………………………………………………  大晦日の夜、この街には雪が降りました。行き交う人々は、みな肩をすぼめ家路を急いでいます。  そんな中、見すぼらしい少女が、街の大通りを歩いていました。             少女はサイズの合わない、硬い靴を履き、古びたエプロンの中に沢山のマッチを抱えています。 「マッチ……マッチはいりませんか?」  少女の消え入りそうな声は、誰の足も止めません。寒さと空腹で震えながらも、少女は声をかけ続けました。  少女の美しい金色の髪にうっすら雪が積もった時でした。 「マッチを1束、くれないかな?」  少女は驚き、手に持ったマッチを落としてしまいそうになりました。なぜなら、その声の主を、少女はよく知っていたのです。  声をかけてきたのは、少女よりも少し歳上に見える少年でした。その少年は、いつも街角で絵を売っていました。    「素敵な絵ね」  かつて、 少女はそう声をかけたことがありました。並べられた絵には、美しい自然の風景や、見たこともない動物が描かれています。  けれど、そう言われた少年は寂しそうな顔になりました。  「ありがとう。でも、売れなければなんの価値もないさ」  それから、何度か少年と話すようになりました。幼い妹がいる事、お父さんは何処かへ行ってしまった事、お母さんがとても頑張り屋さんな事。全然似ていないはずの2人の境遇が、少女にはとても似ているように感じられました。  ただ、少年の絵がなくなる事は、今日まで1度もありませんでした。
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