再び

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再び

鳥の喚き声で目が覚める。日が昇る少し前に起きるのが当たり前で、昔嫌がっていたのが嘘のように体に染み付いているルーティーンだ。 菓子パンを齧りつつ身支度を済ませる。畳まれたつなぎは同じ形だが同じ色はひとつもない。赤一色のものや様々な色がぶちまけられたもの、今日はその山の一番上にあるお気に入りのビビットピンクのつなぎに袖を通した。 「起きてっかトラ!!」 テントの外からは底抜けに明るい兄貴の声がする。毎朝声をかけてくれるのは嬉しいが、いつまでも子供扱いされるのは少し癪だ。 「おはよ、最近はいつも起きてるだろ?」 「確かに。トラも成長したなあ!」 身長はこれからだけどな!なんてのは余計なお世話だ。確かに18歳にして156cmは少し小柄だが、これから伸びるのだ。ぐんぐん身長が伸びて今や180cmある兄貴にはいつまでも小さく見えるのだろうが、もっと幼い時は周りと比べて比較的大きい方だった為毎度毎度そう言われるのはけっこうショックなのだ。その辺を分かって欲しいというのもこの男には期待するのが間違いのようなものだが。俺がふん、と鼻を鳴らすと兄貴は遠慮なく俺の頭を鷲掴みにする。 「嬉しいぜ、トラ!!」 頭をガシガシ撫でられるのは苦手だが、そう言って彼が笑うのは、まるで暑苦しい夏の太陽のような温度と存在感を持っているから好きだ。こんな風になりたいとずっと思って生きてきた。本人には言わないが、俺の指針はずっと彼なのだ。 しかし俺の頭に手を置いたまま、兄貴は少し困ったように笑う。 「あの日お前が帰って来なかったらどうしようかとずっと思っていたんだ。」 。 それは、随分昔の話だった。俺がまだ周りより大きくて、兄貴に助けられてから少し経ったくらいの頃。数えればそう、六年前。兄貴は優しいから、今日もあの日を悔いて俺の頭を撫でる。 ***** ーーーまず、軍事的強化の点から『横並び』の教育が当たり前になった日本で、俺たちの存在は異端でしかない。 みんな平等であるべき、という方向性が競走を無くし、基準のラインに添わせることに発展した。個性なんて無くて当たり前な教育は、争うことを無くされたゆとり世代には都合がよく、反対の声も大してあがりはしなかった。その方が楽、くらいにしかみんな考えられていなかったのだろう。 みんな同じ服を着て、髪型も揃えて、少しでも違うものは弾いて、弾かれたものは集められ揃えられる。それが徐々に当たり前になっていった。それが俺には苦痛だった。 そんな中から俺を助けてくれた兄貴は、数少ない反対派の組織のリーダー格の一人だ。5人のリーダーが仕切る50人近い人数がいる俺たちの組織を誰かが『サイケデリックカラーギャング』を略して『サング』と呼ぶようになった。本来のカラーギャングは組ごとに同じ色を身につけるが、俺たちはそれぞれ好き勝手派手な服を着る。色とりどりの派手な見た目から、派手な色に対して使うサイケデリックをくっつけたという、なんとも適当につけられた名前だが、俺はけっこう気に入っているのだ。サングはunsung(アンサング)ともかけられていて、詩歌にうたわれない、詩歌によってほめたたえられないなどの意味も含んでいる。褒め称えられないド派手な違法集団。それってなんだか凄く俺たちらしいと思ったからだ。 ーーーそんな時に問題となったのが、大企業が国絡みで制作していた『平等の最終形態の作成』だった。 最終形態。つまり、を大量に作り、軍などで使用し、その団結力や力を世界に知らしめることでこの教育に信憑性を持たせようという試みだ。クローン人間の作成に人体実験、しかも自動的に人権の剥奪なんで悪行を法律を取り締まる筈の国はガン無視して軍事強化を掲げてそれを許可していた。 許せなかった。クローンとして軍の為に作られた彼らのことを助けたいと心から思った。それはこの教育に苦しんだサング全員の意思だった。 しかし現場に入るには屈強な男達は大き過ぎたのだ。しかし女性にもなかなか肉弾戦は難しい。そこで挙がったのが、俺だった。 小さいが俊敏で、元々の環境のせいで体術もできる。これ以上の適性の人員はいないと言われた。 「俺は反対だ!!」 17歳だった兄貴は口を尖らせて反対した。 「まだ環境に慣れたばかりの此奴にやらせるにはあまりに重い仕事だ。俺が行く。」 心配してくれていたのであろう兄貴はそう言って立ち上がったが、まだ跳ねっ返っていた俺は優しい兄貴をぶん殴って荷物を奪った。 「俺の初仕事見ててくれよ兄貴!」 助けてくれた彼に恩返しができる機会だと喜んでいた俺は、ぶっ飛んだ兄貴に「兄貴吹っ飛ばせるんだからある程度の奴らには負けねえよ!」と胸を張って言った。そうつまり、ただの悪ガキだったということだ。 ***** 「大丈夫だよ兄貴。」 俺はまっすぐ兄貴を見た。強くて、時々優しすぎる彼はいつもかっこいい。だから俺なんかのことで気負わないで欲しいのだ。その為に強くなりたい。そうずっと考えていた。あの日から、ずっと。 「兄貴が言った通り俺も成長した。次は、も、何も無くさない。」 そう言って鉄製の左手を握る。兄貴の瞳が少しだけ揺れた。 「この世界を壊そう、兄貴。」
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