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少年は今
からんころん、と鐘が鳴って、僕は目を覚ました。
黒い服に袖を通して、揃いの髪型を整える。部屋は成長してから3人ずつに別れることになった。
「厶ーおはよう」
無機質な声は一緒の部屋のニムだ。僕の番号が6だからムーで、彼の数字は26だからニム。そうやってみんな呼びやすく変えて相手を呼んでいた。
相手を呼ぶ。それは昔は僕たちに要らなかったことで、今は欠かせないことだ。
ーーー僕達がまだ小さい時、一人の侵入者が出た。
僕らはそれをひとつの部屋でじっと伺っていたけれど、そこで一人が、トイレに行ってくると言って飛び出したのだ。
飛び出した彼を誰も止められず、追いかけられなかった。どうすればいいのかなんてわからなかった。全員が顔を見合わせて、初めて29人で会議になった。
「どうする?」
「追いかける?」
「爆発する音がした」
「彼はどうして飛び出したの」
議論はてんでバラバラだった。全く同じ筈の僕らは、これほど簡単にそれぞれの考えが変わることを実感して、飛び出した彼が帰ってきたら聞くことを話し合った。そしてそれぞれ相手をなんと呼ぶかも話した。
帰ってきた彼は、少し動揺した面持ちで、ちょっと髪が濡れていた。お風呂に入ってきたのだとすぐにわかった。連れて来てくれた顔の見えない人がいなくなると、すぐに部屋中を漁って何かを探し回った。
そして、ポツリと小さな声で言ったのだ。
「僕達は、このまんまじゃあダメだ。」
その意味はわからなかった。何があったのかは教えて貰えなった。それからも日常は今まで通り続いて、今もこの中で僕たちは生きている。けれど、あの日から確かに僕達はお互いを『個人』として認識するようになった。それは今までとの大きな違いだ。
ーーーそして、肝心のもう一人のルームメイトであり、あの日飛び出した彼である18番のジュハは。今。
「おはようムー、ニム!今日も朗らかな日和だね☆」
……なんだか随分とおかしくなってしまっていた。
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