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無事侵入に成功した俺は、完全に浮かれていたのだ。
侵入はあまりに順調だった。
政府に不満のあるサングが政府の手が加わっている疑いのある場所でデモもどきのことをするのは今までもあったことだった為、研究所周辺で兄貴達が暴れることを、その場の誰もが疑いもしなかった。『とうとう来やがった』くらいの感覚で応戦に出た研究所の職員達の目を欺くのは容易いことだ。
戦闘力も洞察力もないヒョロっとした博士達の目を掻い潜り、ああ見えて機械弄りが得意なアインツさん(その他サイバー班)が用意してくれたカードキーを出す。それを開けたい部屋のカードスキャナーに翳すことで形式を把握、システムをハッキングしてくれる優れ物だ。
数分の解析を終えて、無事にハッキングを終えた優れ物のおかげで、すぐに部屋は開け放題になった。その時はあまり実感していなかったが、政府のキーロックを解錠できる機械をプログラミングするアインツさんは本当にすごいやつなのだ。
そのまま奥まで進み、赤外線センサーの位置を確認しつつ、映りこまないように壁沿いやダクト内を通った。有線センサーが張り巡らされた場所も持ち前の筋力と小柄な身長で容易く避けていく。内部の中あたりまで来ればほぼ監視はなくなり、鍵もさっきのアインツさん特製の優れ物で余裕で開けられる。
そして。
「……ま、じかこれ。」
子供を探そうと次々解錠していった部屋のひとつで、見つけてしまった。
『研究第二段階:政府所有兵器化作戦』
幼い俺でもわかる漢字が連なったそれに、怒りが湧いた。もう、そんな段階まで来ているのか。これでは、存在を認知させるだけでは間に合わない。既に実験は、彼らの兵器化に踏み切ろうとしていた。
突如俺の頭を過ぎったのは、少女の死んだ瞳と先生達の怒り狂う声。
ーーーーまた、助けられないかもしれない。あの少女は、サングの襲撃の際姿をくらましたっきりだ。
間に合わなかったら、助けられなかったら、また、死にゆく心を見なければならないなんて。
そんなの、我慢できるはずがなかった。
いくつも扉を開けて、クローン達を探し回った。焦っていた。全員を今日逃がそうと、そう考えていた。安直で幼くて世間知らずで馬鹿な俺は、自分が傷つきたくないが為に走っていた。もう、自分が無力だなんて思いたくはなかったのだ。
けれど、焦りが祟って俺はひとつ、防犯センサーを見落としていた。至って普通のノーマルなものだ。大きくサイレンが鳴って、咄嗟に俺は近くの棚を思い切り倒した。次はセンサーに引っかからないように窓を開けて、風で棚が倒れてセンサーにかかったように演出する。サイレンを聞いて、近づいて来た足音と真逆の方向に走った。
大丈夫だ、指紋は残してきていないし、あそこに防犯カメラは無かった。だから屹度大丈夫な、筈、だ。
焦りで心臓が痛いほど鳴っている。冷や汗がびっしょりと背中を濡らして、呼吸も速い。
怖いのか、俺は。でも一体何が?
「きゃああーー!!!侵入者!!!!」
瞬間、悲鳴が響いた。予想外の場所から来た女性は、金切り声を上げて俺に物を投げてくる。それに応じて、人が集まってくる足音がした。見つかってしまった焦りと不安が俺を包んで、ちょっと泣きたくなった。嗚呼やってしまったという罪悪感で胸が満たされていく。兄貴ごめん。任せてくれた、みんなも。
同時に生まれたのは、血が滾るような怒りと視界が狭まるような集中。誰も許せないと思った感情を、現して良いと言われたような快感。
腰周りに忍ばせてきたナイフを素早く手に取った。集まって来た覆面達が銃器をこちらに向ける。躊躇わず引き金を引かれたことにこの作戦の重要性を感じでゾクッとした。銃弾を避けるようにジグザグで移動しながら彼等の懐に入り込んで、銃を真っ二つに切った。軽く爆発を起こす銃に驚いて悲鳴をあげる覆面の溝尾にパンチを入れれば、彼等は簡単に床に転がった。
「ははは、よえーよえーーー!!全然足りねえよ!何が平等だ!『異質』に負けるお前らの強さなんてなあ、そんなのなあ、」
一人一人となぎ倒しながら、笑いながら、心を殺されたあの子が負けた教育がこんなものだということに失望して、悔しくて、視界が滲んで声も湿った。
「飛び出た努力とか才能を簡単に潰せるほど価値あるもんじゃねえんだよ!!!!」
覆面が全員倒れたのを見た白衣どもは一人残らず逃げていった。俺は肩で息をしながら、涙を拭って歩き出した。30人の子供を探す為に。見つかってしまったけれど、まだ任務は終わっていない。俺は、彼等に合わなければならないのだ。
しかし無我夢中で暴れたせいでここが何処かももう分からなくて、ウロウロ彷徨ってちょっと不安になってきていた時、その時だった。
ぺたぺたと小走りの足音の後に、息を切らしながら現れたのは。
色白で真っ黒な服を着た、同い年くらいの少年だった。
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