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 第一発見者にしてうっかりと一蝶のマフラーを手にしてしまったがために、僕はその後、ずいぶんと長く事情聴取をされることになった。  もしかしてこのまま犯人になってしまうのだろうかと頭をよぎった。しかし、僕がずっと部室で大掃除をしていたのは部活のメンバーが見ていたし、その後、僕が大量の成果物を持って歩いていたのを、多くの学生が目撃したと証言してくれた。  おかげさまで、僕は無罪潔白を証明できた。…… わけだが、代わりに、一蝶を殺した犯人を捕まえることはできなかったようだ。  一蝶の遺体が家族のもとに返され、無事葬儀を行うにあたって、僕にも連絡が来ていた。だが、たとえ潔白だったからといって、今のこのこと彼女の家族の前に姿を顕すのもどうかと思われた。僕は字が芸術的にヘタだったが、丁寧に欠席の旨とお悔やみの言葉を綴って返した。  そんな僕が、鯨幕で包まれた一蝶の家を遠巻きに眺めていたのは、自分でも上手く説明ができない。  あの違和感の塊であったミントブルーのマフラーを見たせいだろう。僕には鯨幕の中で眠っているあの女性が、一蝶とは思えなかった。  いまでも一蝶は、階段教室の中で静かに座っているような気さえした。あのミントブルーのマフラーから香りをほろほろと零しながら。  一瞬、僕がその香りを見つけたのは、そんなことを想像していたからだと思った。  だが。  違う。  たしかに、あの綺麗な一蝶の香りが、どこかから僕の方へ吹き込んできたのだ。  僕は驚いてきょろきょろとあたりを見回した。  すると、僕と同じようにもう一人、あの鯨幕を遠巻きに眺めている人物がいたのだ。  束だった。  ──── ミントブルーの地にブラウンとベージュのチェックが入ったマフラーを巻いていた。  一蝶の香りは、たしかにそのマフラーから吹き寄せている。  そうして僕は、そこではじめて、束という人間を認識できた。  僕は、一蝶が誰にどうして殺されたのかということには、さして思うことはなかった。彼女には彼女の時間があり、背景があり、出会って半年も経たない僕がそれに口を出すことはお門違いだとさえ思っていた。  ただ、僕はあのマフラーに感じた違和だけが、どうしても拭い切れなかったのだ。  市販のマフラーに一蝶の香りの付いたミントブルーのマフラー。  僕は、あるべきものの確認に、束に声を掛けて尋ねた。 「それ、一蝶のマフラーか」  結果的にその質問は、一蝶のマフラーをすり替えた人物を特定してしまうことではあったが。  束は僕を振り返って、ゆっくりと笑った。  一蝶が笑っているのかと思った。
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