彼女からもらった手編みのマフラーをなくした!

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 放課後、校舎四階に向う。オレの高校で放課後、校舎の最上階である四階は、文化系部活が活躍する場になる。  階段を上がるのは、女子生徒ばかりだ。文化系の部活は女子率が高い。男子生徒の一部には、女子生徒に囲まれたくて、文科系の部活動に入るのさえいる。  オレは部活に入っていない。いわゆる帰宅部だ。部活に遅刻しないよう慌て気味な、女子生徒達は四階へ上がる廊下を、横目の視線でオレを追い越して行く。女子生徒ばかりで、オレとしては、どうしても、物怖じしてしまう。  四階の廊下に出た。長い廊下の窓からは、冬のか細いような西日が差し込んでいる。  窓の反対側には、奥まで、等間隔で壁にドアが並んでいる。女子生徒が異なる群れとなり、それぞれの部室に流れるように、消えて行く。  オレは小さな空き教室の前で足を止めた。ここが手芸部の部室だ。  部室内は全員女子生徒だ。カノジョを呼びにきた男子生徒と、誤解をさけるようにする。  人目を憚るように、左右に顔を巡らせてしまう。心を入れ替えることにした。いかにも、職員室の先生から、部活の連絡事項を伝えにきた生徒のように、意識的に胸をそらす。  ドアの上部には、小さな四角いガラス張りの小窓がある。ちょうど、目線の高さだ。  小窓から、同じクラスの富山(とみやま)が見えた。知らない女子生徒と机を挟んで、菜箸のような長い棒を、両手で動かしながら、毛糸で編み物をしていた。 「うん、かなり慣れてきて、上達してるね」 「先輩が、手芸初心者の私に付き合ってくれて、教えてくれたからです……」 「そんなことないよ。長谷(はせ)さんが、毎日部活動で、努力したから だよ」 「富山先輩みたいに、いつか、セーターを編めるようになりたいです」 「長谷さんは上達早いから、すぐに覚えれるよ」  二人とも、頬を綻ばせながら、手と口を同時に動かしている。椅子の横では、床にデパートの紙袋があり、そこから毛糸が、手にある菜箸状の棒に一筋のラーメンのように絡んでいる。  当たり前だが、おいしそうには見えない。 「センパイみたいに、短期間でマフラー編めるようになりたいです」 「長谷さんは器用だから、すぐ私を追い越しちゃうよ」 「そんなことないです」 「ねえねえ、長谷さんはマフラーを誰に編んでいるの」 「え? ヒミツです」  図らずも、ガールズトークを聞いてしまった。室内に二人しかおらず、ほのぼのした雰囲気だ。富山は、長谷さんという、一年生の会話は、長引いている。 「長谷さん、誰にも言わないから、私にだけ教えてよ」  照れくさそうな表情をした二人に悪い。オレは、ドアをノックした。
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