49人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の放課後、いつしかわたしの足は、校舎の四階にある自習室へ向かっていた。四階の一番端は空き教室で、普段から自習室として開放されている。
結城先輩も生徒会を引退してからは、放課後に時々、残って勉強をしていたのを噂で聞いていたのだ。
自習室の前で立ち止まり、そっとのぞいてみる。
だが、その日は誰もいなかった。
――そうだよね。たまたま結城先輩がいるなんて、そんな偶然、あるわけないよね。
そう思ったとき、気がついた。
窓際の机の上に、黒いマフラーが置かれている。
あれって、結城先輩のマフラーではなかろうか?
引き寄せられるように、わたしはマフラーへ近づく。
「やっぱりそうだ。先輩、忘れて帰ったのかな? それとも、教室に戻ってくる、の、か……」
わたしの言葉が、かすれるように途切れる。
近くで見て、気がついた。
この黒いマフラーは、あたたかそうな黒い毛糸で編まれたものに、同色の糸が混ぜられている……?
これって、絹糸のような――髪?
長い髪の毛?
顔が強張り、一歩、後ろへさがった瞬間。
その黒いマフラーは、机の上で身を縮め、ゴムのように跳ねた。
跳ね飛んだマフラーは意思を持って、わたしの顔に張り付いた。
最初のコメントを投稿しよう!