1/1
前へ
/3ページ
次へ

 台所に入ると、こだわりのウッド調のカウンターキッチンで、妻が黙々と朝食の用意をしていた。おはようと挨拶するが、返事がない。忙しいらしい。  大学生時代に付き合い始めた妻とはちょうどプロジェクト開始の直前に結婚した。  結婚生活は、付き合っている頃の延長線のようなもので、拍子抜けするほど気楽だった。  変化があったとすれば、妻の名字が僕のものになったこと、家がひとつになったこと、それから毎日手料理を作ってくれるようになったことだ。  妻は学生時代から料理好きで、この半年間はプロジェクトで夜遅くに帰っても料理を作って冷蔵庫に入れてくれていた。よくできた妻なのだ。  自分でコーヒーの準備をしながら僕は、料理を続ける妻の背中に聞いてみた。  僕、起きてみたらパイまみれだったんだけど、なにか知らない? と。  妻は振り返らず、固い声でこう答えた。 「昨日はあなたの誕生日だったでしょう? 誕生日おめでとう」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加