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寒い冬の朝、窓の外はまだ真っ暗だった。
シャルロットはオオカミ姿のクロウとグレイにギュウギュウに挟まれて眠っていた。
毛布で隠れた足元には赤ちゃん幻狼のスノウが眠ってる。
隣のベッドには幻狼エステルやフクシアと眠るグレース皇子の姿がある。
こうやって主人の側で寄り添うように眠ったり、群れで固まって眠るのが幻狼の習性らしい。
モフモフなオオカミの体毛は夏場は暑苦しいけれど冬は暖かくて便利だ。
そんなことをぼんやり考えながら、ベッドの上でしばらくぬくぬくしていた。
シャルロットはベッドから起き上がると身支度を済ませてゲストルームを出た。
*
一階へ降りると、広いダイニングルームの食卓の上には既に食器が並んでおり、エプロン姿のデュラハン、ベンジャミン、騎士ユーシンが朝食の支度を始めていた。
そこにはエリザの姿もあった。
「お早うございます。朝食の支度ですか?私も手伝うわ」
シャルロットは皆に声を掛けた。
「おはようございます。妃殿下はどうぞゆっくりしてください」
「いいえ、今回はお手伝いで来たもの。手伝うわ。多所帯の食事の準備は大変でしょう」
「では…」
朝食は薄くスライスしたライ麦パンに、ヘーゼルナッツと豆のディップやフルーツジャム、スクランブルエッグやハムやバターをお好みでトッピングして食べるようだ。
ジャガイモを煮込んで潰した素朴なスープに、ヘーゼルナッツオイルをかけた冬野菜のボウルサラダ。
砕いたヘーゼルナッツを塗して焼いたローストチキン。
シャルロットはベンジャミンが淹れてくれたヘーゼルナッツオレを飲んで、ひと息ついた。
「ナッツの香りがいいわ…、ホッとする」
「はは、美味しいでしょう〜。俺のお気に入りの飲み方です」
全ての料理が食卓に並び終わった頃に、みんながダイニングルームに集まってきた。
「あの……私達も、ご一緒していいんですか?」
エリザ夫婦は萎縮していた。
各国の要人揃いで2人とも昨夜屋敷に到着するなりかなり驚いていた。
「どうぞ、どうぞ。お手伝いしていただくんですから、まかないくらい用意しますよ」
デュラハンは言った。
客人がたくさん来てくれて、屋敷の中が賑やかになったのが嬉しいようでウキウキしているんだと、ベンジャミンが笑いながら教えてくれた。
「むふふ。シーズ様〜♡あなたのために夜なべしてパンを焼いたの〜!ハイ、どうぞ」
ピンク色でフリフリの可愛いエプロンを着た銀髪長身美女アタランテ。
彼女は焼き立てのパンをバスケットの上に乗せると、スキップしながら左王の席の前まで現れた。
「うっふふ〜、シャルロットちゃんからあなたがパン好きだって聞いたから〜、あの後街まですっ飛んで材料買って作ったのよ!ほら、ふわふわのクルミ入りパンと〜、バターたっぷり練り込んだシナモンロール!それにチョココロネ!みんなも食べてね♡」
「アタランテ……もう食事は僕が用意してあるよ」
「デュラハンの田舎くさいご飯なんて来客に失礼じゃない。いっぱいあるから遠慮せずに食べてね」
「もう……こんなに食料を使い込んだら冬を越せないよ」
「なによ〜、ケチくさいわね〜」
デュラハンとアタランテは、まるで夫婦のように言い争い始めた。
左王は我関せずな様子で、好物のパンをモグモグと黙って食べている。
「美味い」
左王がただ一言そう述べると、アタランテは顔を真っ赤にして嬉しそうに舞い上がる。
昨日シャルロット達の前で見事に玉砕したはずだが、左王にすっかり惚れ込んだ彼女はめげなかった。
「キャ♡」
もはや恋する乙女だ。
ーーアタランテも、デュラハンと同じく精霊で、生前は騎士だったらしい。
精霊博士ベンジャミン経由で知り合った2人は、このヘーゼルナッツ農園で二人暮らしをしている。
「アタランテさんのパン、本当に美味しいわ。お料理が上手なのね」
「まあね〜!いつでもお嫁さんに行けるように勉強したのよ」
ドヤ顔をしながら横目にチラチラと左王を見ているアタランテ。
彼女の熱視線を左王はスルーし、朝食に集中していた。
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