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真夜中のアンデットラインを白衣の男が虚ろな目をして彷徨っていた。
ハァ、ハァ、と息を荒くしながら、片脚を引き摺るような特徴的な歩き方をしている金髪の男だ。
「……困ったなぁ……、活きの良い死体が欲しい……新鮮な死体が……」
そうボソボソ呟きながら墓地の前を横切った。
すると墓地の入り口前で怪しい黒服の男たちが荷台を引っ張って、何かを運んでいた。
「あった」
白衣の男はニンマリと笑うと、彼らに声を掛けた。
「やあ、何をしているんだい?君たち」
「ひっ……!」
「それはなんだい?墓荒らしかい?」
「な、なんだ!お前は……」
「同業者?かなあ」
「ハァ?」
不気味にニヤニヤ笑う白衣の男に、男達は怯えていた。
白衣の男の顔はたちまち悪魔のような恐ろしい顔に変わり、どう猛な肉食獣のように鋭い牙を剥き出しにして男達に襲い掛かる。
「ギャアアア!」
男達は荷台を置き去りにして、絶叫しながら走って逃げたーー。
「ん、もうー!泳がせて捕まえようと思ったのに〜!」
「逃げちゃった〜!わーん」
茂みに身を隠していた幻狼クロウとエステル、フクシアが姿を現した。
墓荒らしの犯人を捕まえるために張り込んでいたようだ。
「おや、そうだったのかい?悪いねえ」
「あ、あんた……」
フクシアは白衣の男の顔を見て驚いた。
「ハーバートだ。すまないね。良い検体を見つけたもんだから思わず声を掛けちゃった」
ククク…と気味の悪い笑みを漏らしている。
怪しさ満点の白衣男に疑うような視線をジロジロ向け、警戒する幻狼達。
「お前も死体泥棒か?」
「ククク…僕はちゃんと合法的に死体を手に入れてるよ」
「何?この人、こわぁい」
白衣の男は男達が置き去りにして行った荷台の遺体を墓地に戻し始めた。
腐敗した死体に臆することもなく、眉ひとつ動かさない。
「昔からね、土に埋められた遺留品や、死体を掘り起こして転売する輩もいるんだよ」
「うへ〜死体なんか誰が買うの?…」
「大方、僕みたいな医者とか?まあ、僕達は正規ルートでしか手に入れないよ。世間は何かとうるさいからねえ。……後は、魔術師かなあ。死体や臓器が、魔法や呪いの道具になるそうだよ。死人が蘇るとか?」
「ウゲェ……そんな魔法ないよ〜」
「だよねえ。魔法で人間が生き返ったら医者は要らないっての!…ああ、張り込みを邪魔して悪かったね。名探偵のオオカミちゃん達、はい、コレ」
白衣の男ハーバートは幻狼エステルの顔の前に、犯人が落としていったブローチを差し出した。
合金で出来た山羊のブローチーー魔術師のブローチか……。
「魔術師だとかいう頭のイカれた連中のせいで、死体泥棒だとか墓荒らしだって警察に疑われてしまうから、僕達も迷惑しているんだ。連日、刑事に事情聴取されて営業妨害も良いところだよ」
「やっぱり魔術師の仕業なの?」
「さあね。証拠はこのブローチくらいしかないけれど……。数年前に、霊園の駐在管理人が死んじゃってから、もう監視の目もないし、村人もあまり近寄ってこないから、泥棒には最適な場所だよね〜不用心だ」
ハァっと彼は大きく息を吐いた。
「うーん……」
幻狼エステルは、くるっと後ろを振り向いて霊園を見渡した。
だだっ広い殺風景な土地に墓がいくつも点在している。周りには鬱蒼とした森があり、不気味な雰囲気だ。
(この霊園を、人がたくさん出入りするような場所にすればーー?)
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