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アンデットラインのとある日曜日
新大陸エスター国北部。
霊園や墓地が密集している川沿いの一帯は『アンデットライン』と近隣住人から呼ばれ、恐れられていた。
霊園の前の農園には幽霊が住んでいて、昔戦争で死んだ騎士の幽霊が出没するそうだ。
中でも、首無し騎士デュラハンは時折村までやってきて、住人の家の戸を叩いたり出会った人間に声を掛ける。
首無し騎士デュラハンと出会った人間は死ぬーー、なんていう噂も出回っている。
なんでも失った首を探しに夜な夜な出歩いているそうだが……。
「ベンジー……、正気か?クリシア帝国の皇子夫妻をうちの農園に招くって…?」
「今は帝国解体してクライシア大国だ。問題ない、良い人たちだよ」
医学者をしている友人のベンジャミンは、たまに農園まで遊びにきてくれる。
伸ばしっぱなしの黒髪に赤い目、青白い肌の美しい青年は不安げな顔をして椅子から立ち上がった。
「あちらの騎士もくるよ、デュラハンも昔は騎士だったんだろう?同業者じゃん」
「……ぼっ、僕のこと……怖がったりしない?」
「はは、皇子様は魔人だし精霊使いだ。妃殿下は精霊王の末裔だし、問題ないだろう。お前もゴーストなんて誤解されているが、一応、精霊なのだから、理解してくれるだろうさ」
「そっ…そおかな?そおかな?」
気弱そうな雰囲気のデュラハンという男は、ふにゃああっと表情を緩ませて喜んだ。
「農園の手伝いをしてくれるそうだよ」
「そうか〜、じゃ、じゃあ、来客に備えて準備しなきゃねえ」
「アトランタも問題ないか?この農園に人を招くのは……」
ソファーに座ってクッキーをむしゃむしゃ食べているのは、デュラハンの同居人のアタランテ。
長い銀髪に、薔薇柄のワンピースを着ている長身美人ーー。
「騎士……ってイケメン?」
「うん、全員イケメンだよ。内一人はミレンハン国の王子だし」
「ほんと〜!?独身よね?」
「ははは、独身だよ」
「マジで〜?」
アタランテも瞳をキラキラ輝かせ、露骨に舞い上がった。
キラキラどころか血走ってギラギラで、鼻息を荒くしていた。
「じゃあ、アカデミーが冬季休暇に入ったら、こっちに招待するから」
「わかったわ!バッチリ準備しておくわね。ウェディングドレス買わなきゃ」
「気が早すぎるよ……アタランテ」
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