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シャルロットは長い金髪をお下げに編み込んで、地味な冬物のワンピースの上からサイズの合っていない野暮ったいコートを羽織り、大きなキャスケットを目深に被って芋くさい町娘に変装をした。
兄の左王も、スーツの上から平凡なトレンチコートを纏い変装する。
これは医学者で妖精博士の友人ベンジャミンから借りたものだ。
幻狼らもそれぞれ犬に化けて、みんなで大学都市のセンター街へ遊びに行くことになった。
「わあ」
街は思ったより栄えており、賑やかだ。
シャルロットは目に入るもの全てに感動し、興味を引かれて落ち着かない様子だった。
「西大陸とは雰囲気が違うわね」
「そうですね。移民が多くていろんな国の人が混じっているし、文化が発展しています」
エスター国は、戦後10年近くで著しく発展した。
社会情勢が不安定な西大陸から移住してくる人が多く、人口も大幅に増えた。
「クラブの勧誘のチラシなら、喫茶店やコーヒーハウスの店頭によく貼られているよ」
「コーヒーハウス?…コーヒーが飲めるお店があるの?」
「うん、文系のクラブは飲食店で集まってやることが多いんだ。だから店先に勧誘チラシを貼ってるんだよ」
「そうなのね、私、そのコーヒーハウスへ行ってみたいわ。コーヒーが好きなの」
西大陸ではコーヒーは栽培できないから入手困難だし、贅沢品だとして禁止されていたり、あまり浸透していない。
「コーヒーハウスか〜ーー残念だけど、女性は入店出来ないんです」
ベンジャミンが苦笑した。
「え?」
「大昔からコーヒーは男の飲み物だ、女性が飲むと子どもが産めなくなるとか色々言われていてね。女性は入店すら拒否している店が多いよ」
シャルロットは驚いた。
「そんな、バカな…。それって男女差別じゃない」
「ふふ、だよね〜。でも、コーヒーハウスはオッサンだらけだから妃殿下は浮いちゃうかも。豆は買えるから、自宅用に購入してあげようか?」
「ええ、お願いします」
街中のこじんまりとしたコーヒーハウスの軒先でシャルロットはキャロル達と立っていた。
白いお洒落なデザインの外壁にはいくつもの貼り紙がある。
「これがクラブの会員募集チラシね?…『哲学クラブ』、『小説同好会』、『かばん語研究会』、『政治討論会』、『舞台劇鑑賞会』?へえ、色々あるわね」
一通り目を通してみた。
「……ん?『黒山羊クラブ』?……魔法研究会、どなたでも思うまま魔法が使えるようになる特別な勉強会……?石を宝石や銀貨に変える魔法から、意中の人の心を魅了し奪う魔法、死者を蘇らせる魔法まで……」
目に留まったのは恐ろしい山羊の化け物のようなイラスト入りのチラシだった。
禍々しいデザインは他のどのチラシよりも異質な雰囲気で、つい気になった。
「なんだか怪しいクラブね……」
「そんな魔法、魔人でも使えません。こんなのインチキですよ。詐欺集団だとか、変な宗教団体も多いから、姫様も気を付けてくださいね」
キャロルは言った。
「うん、気をつけるわ」
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