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コーヒハウスの前でベンジャミンを待っていると、当然店内が騒がしくなった。
店の中からは女性の声と怒鳴る男性の声、赤子が泣き喚く声、それを宥めるベンジャミンの声ーー男女二人が何かを言い争っている様子だった。
その声は段々近くなってきて、勢いよく扉が開くと赤子を抱いた女性が店の外に押し飛ばされた。
ベンジャミンが慌てて彼女を介抱した。
シャルロットも驚いて、彼女に駆け寄った。
(首もすわってないような赤ちゃんを抱っこした女性を突き飛ばすなんて……最低!)
女性は尻餅をついた。
赤子はしっかりと胸に抱いていたから無事で、シャルロットはホッとした。
くるっと店の入り口を見ると、30前後くらいの若い男がこっちをギロリと睨んでいた。
赤子を抱く女性は泣きながら、男に叫んだ。
「あっ……あなた!もういい加減にして!もう危ないことはしないで!この新大陸で、家族3人で幸せに暮らそうって約束したじゃない!今度、反逆なんて真似をすれば…次こそ、あなたは死刑になるわ!」
「うるさい!まともに学も分別もない女に政治のことなどわかるものか!家族を守る以前に、国を守らねばいかんのだ!ここは女人禁制だ!お前は家庭のことだけ考えていればいいだろう邪魔だ!出て行け!」
「…!」
シャルロットはハッと目を見張った。
男女の言葉はソレイユ国の母語だった。オリヴィア小国も同じ母語を使うので驚いた。
2人の話を聞くに、夫婦だろう。そして、ソレイユ国からの移住者で、男は政治家か革命家だろう。
平民風の身なりをしているが、どこか品や知性を感じさせる雰囲気の男。
母国で何かをやらかして国外追放でもされたんだろう。
シャルロットは頭にきて、男の前に立つと彼の顔をキツく睨んで、ソレイユ国の言葉で叫んだ。
「あなたね!……奥さんや赤ちゃんも大事に出来ない、守れない人が、国なんて守れるもんですか!」
「なんだと!?小娘が偉そうにしゃしゃり出るんじゃねえ!」
顔を真っ赤にして、理性を失っている男は拳をシャルロットの顔に振りかざそうとした。
騎士アーサーがすぐさまシャルロットの前に乗り出し、男の手首を掴むと腕を捻った。
キャロルはシャルロットの身体を掴んで、男から遠ざけた。
「なっ!なんだ!お前らは……!」
コーヒーハウスの店主が顔を青くして店から出てきた。
「お客様……店の前でケンカするのはおやめください!警察沙汰は勘弁してください!」
店の外を歩いている人や店内の男たちもこちらを訝しげに見ている。
シャルロットは冷静になって、店主に頭を下げた。
「申し訳ございません。このご婦人は私が預かります。それでは失礼いたします」
シャルロットは赤子を抱く女性の腕を引っ張り、足早にコーヒーハウスを飛び出した。
あの男は目を点にして、シャルロット達の背中に叫ぶ。
「おっ……おい!」
「あ、これ、俺の名刺です。何かあればこちらにご連絡ください。ではでは〜」
ベンジャミンは大学名の入った名刺を男に渡すと、購入した物を腕に抱えてシャルロット達が消えた方向へ走った。
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