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A番街にあるアカデミーの講堂前で、グレース皇子はミレンハン国から留学中のトーマ王子に出会った。
「こんにちは、グレース皇子。兄上と、ユーシンとアヴィもこんにちは」
トーマ王子はアカデミー内にある寮で生活をしていた。
グレース皇子とは同じ講義を取っているのでよく顔を合わせている。今では2人ともすっかり良き友人関係だ。
「ああ、トーマ王子」
「もう直ぐ冬季休暇ですけど、グレース皇子たちはどうされるんですか?」
「ああ、郊外のタリータウンにある農園へ行く予定だ。ベンジーの友人が経営しているそうだ。シャルロットがそこで収穫の手伝いをするらしい」
「ふふ、働き者な奥様ですね」
「トーマ、お前も行くか?どうせ暇だろうし、お前って出不精だからな」
「兄上……、是非。グレース皇子、良いですか?」
「構わん、シャルロットもお前に会いたがっていたからちょうどいいだろう」
グレース皇子は、ふと、トーマ王子が手に持っている本に挟まっていた黒い紙に気付いた。
何故だか微量だったが、魔法の気配を感知したのだ。
「トーマ王子、それは?」
「ああ、これですか?さっき、食堂でアカデミーの学生からもらったチラシです。クラブの勧誘でした」
トーマ王子はチラシをグレース皇子に手渡した。
『魔法研究会・黒山羊の会』
そのチラシの内容を読み終えると、グレース皇子や騎士らも顔をしかめた。
「これって……魔術師が関わっているのか?死者を蘇らせる魔法だとか、人の心を奪う魔法も、ーーすべて禁止されている魔法だぞ。それに山羊も……魔術師のシンボルだ」
「俺は魔人じゃないので魔法の知識もないし、チラシを渡されただけですので詳細は分かりません。興味があるなら、入会しないかと誘われただけです。入会しなくても、金を払えば呪いを売ったりするようです」
トーマ王子は言った。
「……まあ、どう考えても、胡散臭いので適当に断っておきました」
「賢明だよ。関わらない方がいいぞ〜。この手の話は大方詐欺か、魔術師が関わってるよ」
アヴィは苦笑していた。
「はい。このことを相談したくって声を掛けてみました」
「お前、カモっぽい顔してるもんなあ。騙されるなよ」
ゲーテは小馬鹿にするようにゲラゲラ笑った。
トーマ王子は困ったように笑いながら、チラシをぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
「魔人って、魔法でなんでもできるわけじゃないんですね?」
トーマ王子はグレース皇子に尋ねた。
「ああ、魔力があってもきちんと訓練しなければ使えないし、魔法は使用方法を間違えれば自分の身を滅ぼしてしまう諸刃の剣なんだ。人を呪えば、必ず自分にも呪いが跳ね返ってくる。悪質な魔法ばかり使っていると魂が蝕まれて、バケモノになってしまうんだ」
「へえ、便利だけじゃない…恐ろしい力なんだね」
「俺も小さい頃からずっとそう思っていた。魔法を恐れていた。けれど、魔法だって正しく使えば万能だし、自分の力になる、人のためにもなる」
これはシャルロットが教えてくれた。
ずっと魔法を使う事を忌避していたグレース皇子だが、シャルロットと出会ってから魔人であることに誇りを持ち、魔法の勉強だって真面目に取り組むようになったのだ。
「魔法に限った話ではありませんね。大きな力は素晴らしい道具にもなるし、凶器にもなりうる。でも、力が悪いんじゃない。扱う人の心次第ですよね」
「ああ、そうだな」
2人は笑い合いながら、廊下を進んだーー。
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