彼女は拗らせ女神?OR変質者?

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彼女は拗らせ女神?OR変質者?

 シャルロット達が到着してから数時間後、夜になり、辺りがすっかり真っ暗になった。 「遅いわね……」  コーヒーハウスで出会ったエリザ夫婦が遅れてやってくる予定だったのだが、約束の時間を過ぎてもなかなか現れなかった。  シャルロットはしきりに時計や窓の外に目をやり、落ち着かない様子でいた。 「ねえ、ゲーテ、グレイ。屋敷の外へ出たいんだけど良いかしら?エリザさん達、もしかしたら迷子になっちゃったんじゃないかしら?探しに行きたいの……」  同じ部屋でくつろいでいたゲーテとグレイに声を掛け、シャルロットはゲーテの馬に乗せてもらって門の外へ出た。  キャロルも同伴し、エリザ夫婦が乗ってくるはずの馬車を探した。 「真っ暗で何も見えないわ……」 「灯をともしましょう」  キャロルは光の魔法で夜道を照らした。  赤ちゃん幻狼スノウは、みんなとのお散歩が楽しいのか、誰よりも先頭を我れ先にと小走りしてはしゃいでいた。  グレイは我が子がはぐれないように、後ろを黙って歩いた。 「暗くなるとやっぱ不気味だなあ〜。ゴーストでも本当に出てきそうだ」  ゲーテが呟くと、キャロルは顔を真っ青にして馬の上でプルプル震えた。 「変なこと言わないでください!本当に出てきたらどうするんですか!?」 「うふふ、そういえばキャロルさんって幽霊が苦手だったわね」 「にっ……苦手じゃありません!びっくりするだけです」  しばらく進んだところで、突然男性の悲鳴が聞こえた。  驚いて悲鳴がした方向へ向かうと、馬車が道の真ん中に停まっており、青年が何者かに襲われているところだった。  人影だが全身を黒い靄が覆い、目は真っ赤にギラギラと光ってる。  まるで恐ろしい鬼のような……。 「エッ……?」  あれはエリザの夫だ。  馬車の中には赤子を抱いたエリザ、馬車の陰には馬子が怯えながら腰を抜かしている……。 「エリザさん……!」  シャルロットは驚いて叫ぶ。  騎士キャロルとゲーテは直ぐに馬から降りて、助けに入る。  青年を襲う人影に向かって剣を振るうが、相手は軽やかにそれを避けるとキックで反撃してきた。 「な……!」 「んもう〜!レディーに暴力を振るうなんて〜!紳士のすることじゃないわ!」  突然女性の声がして、地響きがした。  キャロルは大きな揺れに足を取られ、その場で尻餅をついた。 「……え?」  黒い靄が消えると、人影が姿を現した。 「ええ?」  甘いデザインの可愛いワンピースを着て、ヘッドドレスを頭に付けた銀髪の長身美人ーー。  彼女はプンスカ怒っていた。 「なによ〜、もう、ちょっとイケメンを見つけたから声を掛けただけじゃないの。っていうか!きゃ〜!あんたもなかなかの美少年ね〜」 「ヒィ〜!来るな〜!」 「へえ〜ウサギの獣人なのね〜かわいいわぁ〜」  彼女は、今度はキャロルに襲い掛かる。  キャロルは恐怖のあまりウサギの姿に獣化して、耳を垂らしてプルプル震えた。 「そこまでだ」  鼻息を荒くしてウサギに迫る謎の女性と絶体絶命のウサギの間に、突然大剣が飛んできた。  そして草陰から出てきたのはーー。 「お兄様……?」  シャルロットは目を見張った。  助けに入ったのは自身の兄で、オリヴィア小国の左王シーズだった。 「……え?あ、あなたは……」  銀髪の女性は左王の顔を見て言葉を失くした。  左王は放心状態のウサギを回収すると、女性の腕を掴み、容赦なく思い切り捻った。 「……お、お兄様…!女性に乱暴はダメよ」 「お前だな。夜な夜な徘徊して、村の若い男共に襲い掛かる痴女っていうのはーー」  左王は女性を取り押さえて、淡々と述べた。  女性は無抵抗だった。 「村人に頼まれたのだ。変質者退治を」 「失礼ねっ、変質者でも痴女でもないわっ」  女性は左王の腕を払い、足技をかける。  左王は眉ひとつ動かさず、地に着いた彼女の足首を蹴飛ばす。  バランスを崩した彼女は横転しかけるが、左王は彼女の腰に手を回し支えた。  左王の腕の中で、彼の整った顔に見惚れた彼女は目をトロンとさせ顔を真っ赤にさせる。  さっきまでの鬼のような形相が一変、乙女のような顔になる。 「う……うそ……、あなた……っ、タンザナイトの勇者様……?」 「そうだが?俺には変態の知り合いなんか居ないが…」 「私です……いつだったかしら……?ソレイユ国の傭兵をしていたあなたと、戦争でサシで戦ったじゃない!女騎士だった私は、あの時あなたに負けて、あなたの剣に貫かれて絶命したのよ?」 「……女騎士……?ああ……」  左王は目を大きく見開いた。 「……ああ!奇跡だわ!私、あの時あなたに生まれて初めて恋をしたの……、命だけじゃなく心まで奪われたの……!そんな人、あなただけだったわ!ああ!会いたかった!」 「……」  女性は舞い上がっていたーー。  そして左王の胸に飛び込むと、大きな声で叫んだ。 「ここで再会できたのは運命なのよ!好きです……!私と、結婚してェ!…」 「断る」  秒速だった。  左王は顔色を変えることなくバッサリとーー即答で、断った。 「………え、ええ?」  愕然とする女性。  森の静寂を裂くように、野犬の遠吠えが響いていた。
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